(…前編より続く)そんな『あん』だが、主題歌には秦基博の書き下ろし曲「水彩の月」が起用されている。秦基博と映画の関わりと言えば、昨年公開された『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌「ひまわりの約束」が記憶に新しい。
・【映画を聴く】映画『あん』の世界観に優しく寄り添う秦基博の音楽/前編
ほどよく透明感の残る歌声と聴き手を優しく包み込むような作風が良い意味で何色にも染まるような可能性を感じさせるのだろう。タイアップ曲も多く、『STAND BY ME ドラえもん』のほか、映画だけでも『クリアネス』(「僕らをつなぐもの」)や『築地魚河岸三代目』(虹が消えた日)、『言の葉の庭』(「Rain」、大江千里のカヴァー曲)など、幅広い作品に起用されている。
「ひまわりの約束」がそうであるように、秦は基本的に自身の弾くアコースティック・ギターをアンサンブルの中心に据えた自作曲を歌うシンガー・ソングライターだ。しかし今回の「水彩の月」は、意外にもピアノをフィーチャーしたバラード。従来の秦基博というアーティストのイメージを押し広げるような新鮮な楽曲に仕上がっている。秦の楽曲の起用は、河瀬監督の強いラブコールで実現したものらしく、河瀬監督の作風である光や風景の独特な描写にインスパイアされ、ピアノをメインとした曲調を思い立ったという。
なお、前述のように『あん』は東村山で多くのシーンが撮影されているが、「水彩の月」のMVは河瀬監督の地元であり創作の拠点である奈良の原生林の中で撮影されたそうだ。ところどころに『あん』の映像もインサートされており、映画と楽曲が互いのイメージを補完し合っている。
加えて6月3日にリリースされる初回盤CDシングルには、河瀬監督が自らカメラを持ち、16mmフィルムを回したスペシャル映像も収録されているようなので、両者のファンは要チェックだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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