恐るべき「コッポラ」の血統。『パロアルト・ストーリー』のごく自然なハイセンスぶり/前編

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コッポラ一族から飛び出した新たなる才能! ジア・コッポラ監督
コッポラ一族から飛び出した新たなる才能! ジア・コッポラ監督

ジア・コッポラ監督の『パロアルト・ストーリー』は、役者や映画監督のほか、作家としても活動するジェームズ・フランコの自伝的短編小説集を再構築して映画化したもの。そのフランコ自身のほか、(ジュリア・ロバーツの姪)エマ・ロバーツやジャック・キルマー(ヴァル・キルマーとジュアンヌ・ウォーリーの息子)の出演も話題となっているが、何より注目を集めているのは、本作がジア・コッポラの初監督作品であるということだろう。

コッポラという姓から察しがつくように、彼女はかのフランシス・フォード・コッポラの孫娘であり、ソフィア・コッポラは叔母にあたる(ジアの父である俳優のジャン=カルロ・コッポラは、1986年に22歳の若さで事故死している)。その出自から、期待されないわけがない28歳の監督デビュー作だが、これが総合的な芸術性の高さが光る出来映えで、さすがはコッポラ・ファミリー!と言いたくなるような作品になっている。

写真家としてキャリアを重ね、コマーシャル・フィルムなども手がけてきたというだけあって、映像作家としての手腕の確かさはこの1本を見るだけでも明らかだ。極端に言ってしまえば、本作はティーンエイジャーの不安定な恋模様だとか、有り余るエネルギーの使い途を誤った行動を淡々と描いただけの群像劇なのだが、光や陰影から役者の衣服、部屋のインテリアにいたるまで、すべてが「いかに普通(=リアル)であるか」というこだわりのもとに選び抜かれたものであることが、画面の端々から見て取れる。

それはキャスティングについても同じで、数百人のオーディションをしたにも関わらず、監督は最終的に役者経験のないジャック・キルマーを含む旧知の仲間を中心に「その役柄に近い人」を選びとっていったようだ。

ジェームズ・フランコは前述の通り、役者としてだけでなく、映画監督や作家としてもマルチな才能を発揮しているが、自分の書いた小説を自分で監督して映画化するつもりはなかったらしく、ジアに監督のオファーを出したのは、他ならぬフランコだったという。脚本や全体の構成にもアドバイスをしており、ジアの監督デビューを大々的にバックアップしている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

【映画を聴く】恐るべき「コッポラ」の血統。『パロアルト・ストーリー』のごく自然なハイセンスぶり/後編

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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