(…前編より続く)で、音楽はどうか。祖父のフランシス・フォード・コッポラも、叔母のソフィア・コッポラも、その監督作品にはいつも音楽好きを唸らせる楽曲が用意されているが、そんな“芸風”はジアにもきっちり(と言うか、ごく自然に)受け継がれている。
・【映画を聴く】恐るべき「コッポラ」の血統。『パロアルト・ストーリー』のごく自然なハイセンスぶり/前編
たとえばフランシスの『ワン・フロム・ザ・ハート』での、トム・ウェイツを起用したミュージカル仕立ての男女の会話。ソフィアの監督デビュー作『ロスト・イン・トランスレーション』での、マイ・ブラディ・ヴァレンタインやジーザス&メリチェイン、日本の“はっぴいえんど”などを使う選曲の妙。特に後者は渋谷界隈が舞台になっていたことも手伝って、日本でも好意的に受け入れられている。
本作においてジアは、ブラッド・オレンジ名義で活動するソングライター/プロデューサーのデヴ・ハインズを抜擢。書き下ろしのオリジナル曲などを随所に散りばめている。ブラッド・オレンジとしてはR&B的な音楽性を追究しているハインズだが、彼はもともとディスコやパンク、ラウド・ロックなど、時代ごとの最先端音楽をジャンルレスに実践してきた人物だ。その器用ぶりは、本作でも申し分なく発揮されている。
エレクトロニックR&Bとでも言いたくなるテーマ曲「Palo Alto」や幻想的なシンセサイザーの音色が印象的な「April’s Daydream」などを書き下ろしているほか、ブラッド・オレンジの「Champagne Coast」といった既発曲も提供。それによってもたらされる映像と音の化学反応は、ソフィアが『ロスト〜』で見せたセンスにどこか通じるものがある。「ここでこういう曲!?」という意外性を感じさせながら、俯瞰で見るとそれが強烈なフックとして映像を演出しているのだ。そのサウンドトラックCDも輸入盤でリリースされているが、『ロスト・イン・トランスレーション』同様、映画と切り離してコンピレーション・アルバムとしても普通に楽しめてしまう好盤になっているので一聴をおすすめしたい。
3代にわたって監督業を“世襲”することになったコッポラ一家。ソフィア同様、今後が大いに期待できる女流監督になりそうだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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