問答無用に美しい鎌倉の四季と広瀬すず
鳴り物入りでカンヌ国際映画祭への出品となったが無冠に終わった、是枝裕和監督が吉田秋生原作のベストセラーコミックを映画化した『海街diary』。無冠に納得というと失礼かもしれないが、心揺さぶられるというよりはとてもシットリと落ち着いたドラマに仕上がっている。地味な物語ながら国内でもこんなに注目が高いのは共演陣の豪華さもあるだろう。
メインキャストだけをとっても単独で主役を張れる4人の女優・綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが4姉妹として共演している。しかしながら、商業映画的に豪華にしたいのはわかるけど、ちょっときらびやか過ぎるよなぁと違和感を感じた。吉田秋生の描く登場人物には“華”がない。「吉祥天女」の美女・叶小夜子にしたって、妙に生々しい妖艶さはあるが、華があるかというとそんなことはない。だから、本作には安藤サクラや黒木華あたりを配置しても良さそうなのに、と思った。ただ、彼女たちに比べると主演4人は華やか過ぎるきらいはあるが、作品の枠をはみ出ることなくわきまえて納まっていた。
三姉妹の長女・幸を演じる綾瀬はるかは長女っぽいイメージはないが、凛として落ち着いたアラサー女性らしい佇まいが意外としっくりハマっている。次女・佳乃役の長澤まさみは原作より優等生な雰囲気は否めないがコケティッシュな魅力を振りまき、三女・千佳役の夏帆は、原作通りに父親の葬儀前日にアフロに変貌するという危険は冒さずお団子ヘアで憎めない天然キャラに扮している。そして、この三姉妹とは腹違いの妹で父の死をきっかけに三姉妹と共に暮らすことにするすずは、名前も同じ広瀬すずが演じ、原作のすずより美少女ではあるが、雰囲気がよく似ている。
現在単行本6巻まで出ている原作の物語をコンパクトにせざるを得ない映画ではすずが地を出せるまでに至らず、大人しめではある。おしなべて4人ともが原作よりは大人しめだ。漫画ではシリアスとギャグが共存できるが、実写でそれをやるととっちらかってしまうから正解かもしれない。女優陣のあふれ出る華やかさを抑える効果もあるかもしれない。ただ、ちょっとおしとやか過ぎるように感じ、物足りなく思う。
そして、広瀬すずが桜のトンネルを自転車の後ろに乗って駆け抜けてゆくシーンは、さすが旬の女優と見る者を唸らせるほど美しい。このシーンが代表するように、本作には季節を感じさせるシーンが随所に登場する。舞台となる鎌倉の見どころでもある紫陽花もためいきが出るほどキレイだ。
吉田秋生の漫画は人間ドラマが見事だが、それを盛り立てる街や季節の空気を感じさせる描写も見ごとだ。「櫻の園」の桜、「吉祥天女」の嵐、「河よりも長くゆるやかに」のおそらく福生、古くは「カリフォルニア物語」のマンハッタン、そして「海街diary」と登場人物に繋がりのある「ラヴァーズ・キス」の鎌倉などなど。逆に言うと、その空気を呼吸して登場人物がそこに生きているのだと感じさせる。今回はタイトルにも“海街”とつき、鎌倉や江の島が舞台となっていて情緒豊かな季節感が流れている。映画版も1年間を追って鎌倉の四季を映し出してゆく。ついでに言うと、4姉妹が共に暮らす古い家屋はもうひとりの登場人物といっていいほど、味わいがあって大切な存在。この家屋も映画版できちんと再現されているのは嬉しかった。(後編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
『海街diary』は6月13日より全国公開中。
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