日本でも上映が始まった『グローリー/明日への行進』は、マーティ・ルーサー・キング・ジュニア牧師を主人公にした初の長編映画。原題は『Selma』で、キング牧師が1965年に行なったアラバマ州セルマから州都モンゴメリーへのデモ行進を実現させ、当時のリンドン・ジョンソン大統領が黒人への公民権と有権者登録を正式に認めるまでが描かれている。
キング牧師の生涯については、これまで何度も映画化が試みられながらことごとく頓挫しており、本作の主題になっているセルマでの「血の日曜日事件」(1965年)からちょうど50年という節目の年に、ようやく公開される格好となった。コモン&ジョン・レジェンドによる主題歌「Glory」が、本年度のアカデミー賞 主題歌賞を受賞したことでも大きな話題になっている。
キング牧師を演じるのは、『リンカーン』や『大統領の執事の涙』などに出演していたデヴィッド・オイェロウォ。実際のキング牧師の風貌に近づくために体重を増やして髪の毛を短く刈り込むだけでなく、カリスマ性にあふれるスピーチ力も習得。本作では有名な“I have a dream”の演説は出てこないし、実際にキング牧師が行なった演説もそっくりそのまま再現されているわけではないが、本人の身振り手振りや話し方を7年かけて徹底的に叩き込んだということで、単なる歴史上の“偉人”ではない、苦悩や葛藤もちゃんと抱えるひとりの活動家としてのキング牧師を熱演している。
エヴァ・デュヴァネイ監督は、1972年生まれの黒人女性。インディペント映画では数々の実績を重ねているが、メジャー配給の大規模な長編映画は本作が初となる。キング牧師が成し遂げた公民権の獲得から半世紀を経た現在も、アメリカではいまだ各地で人種差別が横行している。自身もアラバマにルーツを持つというデュヴァネイ監督は、そんな現代にも有効なメッセージとして、キング牧師の物語を世に問いたかったのだろう。主題歌「Glory」の内容にも、本作のテーマははっきりと表れている。(文:伊藤隆剛/ライター)
『グローリー/明日への行進』は6月19日より公開中。
・【映画を聴く】キング牧師の初伝記映画メッセージを煽動するコモン&ジョン・レジェンドの主題歌「Glory」/後編
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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