『踊る大捜査線』『海猿』シリーズなど、テレビ局が制作したヒット映画は数多い。そんなテレビ局と映画製作の歴史2回に分けて解説。今回は、2回目です。
1990年代に冬の時代を迎えた映画界は、2000年代に入ると復活を果たす。1999年に1億4476万人を記録した年間観客動員数は、2000年に1億3540万人にダウンするが、翌01年に1億6328万人に上昇すると、以降2000年代は1億6000万〜1億7000万人で推移する。
・【興行トレンド】テレビ局と映画製作の歴史(その1)/映画製作に最も熱心だったのはフジテレビ!
洋画と邦画の年間興行収入シェア(映連では2000年から興行収入で統計を発表)では、2000年代前半は、洋画のシェアが邦画より高い「洋高邦低」が続いた。特に02年には邦画が27.1%にまで減少する。その後、邦画はシェアを伸ばしつづけ、06年に53.2%と21年ぶりに洋画を上回る。翌07年は47.7%と再び下回るが、08年に59.5%を記録してからは2014年に至るまで「邦高洋低」が続いている。
邦画復活の原動力がテレビ局だ。2003年に『踊る大捜査線THE MOVIE2』が興収173億円をあげ、『南極物語』を抜いて邦画実写新記録を樹立。テレビ局が邦画界をリードする時代に突入する。テレビドラマ発の映画が次々と公開され、06年『LIMIT OF LOVE 海猿』、07年『HERO』、08年『花より男子ファイナル』、09年『ROOKIES-卒業-』、10年と12年には『海猿』『踊る大捜査線』が大ヒットを記録した。
ドラマ発以外にもテレビ局が製作する映画が増える。TBSは04年『世界の中心で、愛をさけぶ』『いま、会いに行きます』、05年『NANA』、06年『日本沈没』など、日本テレビは05年『ALWAYS 三丁目の夕日』、06年『デスノート』、08年『20世紀少年』など、フジテレビは06年『THE 有頂天ホテル』、12年『テルマエ・ロマエ』などを製作。視聴率競争で培われた「観客の好みを重視した作品づくり」に加え、自局を活用した一大プロモーションの力もあり、次々とヒット作を生み出している。
ちなみに、TBSや日本テレビで映画を製作する部署は事業局の中の映画事業“部”だが、フジテレビのみ映画事業“局”と格上げされている。
ところで、2014年の興収ランキングで実写映画の上位作を見ると──
『永遠の0』(興収87.6億円)テレビ局なし
『るろうに剣心 京都大火編』(52.2億円)テレビ局なし
『テルマエ・ロマエII』(44.2億円)フジテレビ
『るろうに剣心 伝説の最期編』(43.5億円)テレビ局なし
『ホットロード』(24.7億円)日本テレビ
『ルパン三世』(24.5億円)TBS
『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』(21.9億円)フジテレビ
『相棒 -劇場版III- 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ』(21.2億円)テレビ朝日
『トリック劇場版 ラストステージ』(18.0億円)テレビ朝日
『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(17.8億円)フジテレビ
テレビ局製作映画が多い傾向に変わりはないものの、『永遠の0』『るろうに剣心』とテレビ局が製作に携わらないヒット作も目立っている。テレビ局が製作に加わるとテレビでの宣伝効果が期待できる点がメリットだが、デメリットもいくつかある。
(1)他局での宣伝がしにくくなる
(2)大ヒットした場合でもテレビ放映権を他局に売ることができないため、権利料が安く抑えられてしまう可能性がある
(3)テレビ放映を前提とするため、過激な内容や描写の作品は製作しづらい(明確な基準はないが、2010年『告白』のようなR15+作品は手掛けづらい。『寄生獣』には日本テレビが製作に加わっているため、パラサイトが人を喰う描写の残酷度を抑えてPG12になっている)。
そこで大ヒットする可能性のある企画なら、映画会社や芸能プロダクションが中心となって製作費を集め、テレビ局を加えずに製作を敢行することもある。芸能プロダクションからテレビ局に宣伝協力を依頼し、出演俳優を積極的にバラエティ番組に出演させることでプロモーションを展開するのだ。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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