『チャイルド44 森に消えた子供たち』
イギリスの小説家、トム・ロブ・スミスによる2009年の処女作を原作とした『チャイルド44 森に消えた子供たち』の公開が始まった。ヨシフ・スターリンの独裁政権下にあった1950年代のソビエト連邦を舞台とした原作小説「チャイルド44」は日本でも2009年に刊行され、「このミス」の愛称で知られるガイド本「このミステリーがすごい!」の海外編で第1位を獲得。今回の映画化を心待ちにしていたミステリーファンは多くいるに違いない。
モチーフになっているのは、旧ソ連で実際に起きたアンドレイ・チカチーロというウクライナ人による連続殺人事件。実際の事件は1978年から90年にかけて起こったものだが、スミスはこれを50年代に置き換えている。スターリンの打ち立てた「ユートピアである社会主義国家に殺人事件など起こらない」という建前のもと、殺人事件が黙殺されていた大国の“歪み”を精緻に描き上げており、なんとロシアでは発禁処分になったとか。タイトルの『チャイルド44』は、変死体として発見された9歳から14歳までの子供の数を表している(実際のチカチーロ事件ではさらに多い52人の命が犠牲になっている……)。
監督は、スウェーデンで興行的にも評価的にも大きな実績を持つというダニエル・エスピノーサ。当初メガホンを取る予定だったリドリー・スコットは、メル・ギブソンに競り勝つ形で出版前から映画化権を獲得していたものの、エスピノーサの2010年作品『イージーマネー』を見て感激。彼に監督を任せ、自身は製作にまわることにしたという。
主人公のレオを演じるのは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『オン・ザ・ハイウェイ』も上映中のトム・ハーディ。友人の息子の不自然な死をきっかけに、国家に背いて真相を追究するエリート捜査官を熱演している。レオに背中を押されるように“腐敗”からの脱却を図る警察署長役はゲイリー・オールドマン。出番は思ったよりも少ないが、安定の演技力で作品全体を引き締めている。(後編に続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】じわじわと緊張を高める「音」が効果的。ドルビーアトモス音声なら魅力倍増なのに…『チャイルド44』/後編
『チャイルド44 森に消えた子供たち』は7月3日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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