パンをこねる姿が超セクシー! 名作小説をモチーフにした辛辣コメディ『ボヴァリー夫人とパン屋』

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なぜか服も脱いでいく、セクシーすぎるパンこねシーン!『ボヴァリー夫人とパン屋』
(C) 2014 - Albertine Productions - Cin3-@ - Gaumont – Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute
なぜか服も脱いでいく、セクシーすぎるパンこねシーン!『ボヴァリー夫人とパン屋』
(C) 2014 - Albertine Productions - Cin3-@ - Gaumont – Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

19世紀のフランス文学の名作「ボヴァリー夫人」をモチーフに、現代のフランス・ノルマンディーでパン屋を営む男が向かいに越してきたイギリス人の人妻と小説のヒロインを重ねて妄想する『ボヴァリー夫人とパン屋』。ギュスタヴ・フローベールの小説のヒロインの名は“エマ”だが、映画のヒロインは“ジェマ”。彼女の名前、ジェマ・ボヴァリーは原題でもある。

[動画]『ボヴァリー夫人とパン屋』意外なセクシー映像+予告編

パリでの出版社勤めを7年前に辞めて、実家のパン屋を継いだマルタンは愛犬に“ギュス”と名づけるくらいフローベール好きで、引っ越してきたお向かいの奥さんの名前と彼女自身の官能美に夢中になる。愛読小説の舞台でもあるノルマンディーに、ヒロインとよく似た名前の人妻がやって来た! しかも夫は小説の登場人物と同名!! それまで堅実な日々を過ごしていたマルタンの舞い上がる様を妻子は呆れた様子で見守る。彼が取り憑かれているのはジェマ本人というより「ボヴァリー夫人」で、ジェマの一挙一動に小説との共通点を見出しては妄想をふくらませていくという設定が面白い。愛犬の散歩中によく出くわすご近所同士として、パン屋と顧客として、マルタンとジェマは交流を深めていく。

田舎で平凡な結婚生活を送る人妻が不倫に走り、悲劇的な最期を遂げるのが小説のあらすじだが、イギリス人の夫と静かな暮らしを求めてここに来たはずのジェマにも年下の男の影が見え始める。小説と現実のシンクロが起きる度に不思議な高揚を味わいつつ、ジェマがエマと同じ道をたどらないように、と気を揉むマルタンの一喜一憂がおかしい。演じるのはフランソワ・オゾン監督の『危険なプロット』で小説家志望だった国語教師を演じたファブリス・ルッキーニ。実はルッキーニはフランス国内では文学に造詣の深いことでつとに有名で、教養番組などに出演して文学を語る時は、マルタンの百倍は情熱的にまくしたてる。文学愛の強さゆえに、考えがどんどん飛躍していくマルタンを実に楽しそうに演じている。

マルタンの眠っていた情熱に火をつける“ボヴァリー夫人”を演じるのは、奇しくもヒロインと同じファースト・ネームのジェマ・アータートン。『007 慰めの報酬』でボンド・ガールの1人を演じ、『ビザンチウム』などでも肉感的な美女を演じてきたが、ここでも無造作な仕草に何ともいえないエロスを漂わせ、マルタンや夫のチャーリーをはじめ、男たちを夢中にさせる魔性を発揮する。

映画の原作はイギリスの女性作家によるグラフィック・ノベル。前作『美しい絵の崩壊』では親友の息子と恋に落ちる中年女性という大胆な設定に挑戦したアンヌ・フォンテーヌ監督は、本作について「アングロサクソン的な残酷さと辛辣さが混じったコメディ」と語る。片言のフランス語を操るヒロインに際どい台詞を言わせたり、マルタンがジェマにパン生地のこね方を教えたり、ところどころに少々あざとさも感じる。もうそのためのパン屋という設定なのでは、と邪推したが、実はこのシーンは監督が書き足したのだという。劇中、マルタンの妻はジェマについて「抑圧されたイギリス女」と言うのだが、まさにその言葉通りというか、原作にない描写の内容に、イギリスとフランスの文化の違いがはっきりと現れたことが何とも興味深い。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ボヴァリー夫人とパン屋』は7月11日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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