(…前編より続く)
80年代ヒット曲満載のミュージカル映画『踊るアイラブユー♪』。その使用楽曲のオリジナル・ヴァージョンをリリース順に並べ替えると、以下のようになる。
・【映画を聴く】懐かしいだけじゃない!80年代ヒット曲の魅力を生かしたミュージカル映画『踊るアイラブユー♪』/前編
1981年「Don’t You Want Me?(愛の残り火)」ヒューマン・リーグ
1982年「White Wedding(ホワイト・ウェディング)」ビリー・アイドル
1983年「Holiday(ホリデイ)」マドンナ
1983年「Girls Just Wanna Have Fun(ハイスクールはダンステリア)」シンディ・ローパー
1984年「Wild Boys(ワイルド・ボーイズ)」デュラン・デュラン
1984年「Wake Me Up Before You Go-Go(ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ)」ワム!
1985年「How Will I Know?(恋は手さぐり)」ホイットニー・ヒューストン
1985年「Walking on Sunshine」カトリーナ&ザ・ウェイブス
1986年「Venus(ヴィーナス)」バナナラマ
1986年「The Power of Love(パワー・オブ・ラブ)」ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース
1987年「Faith(フェイス)」ジョージ・マイケル
1988年「Eternal Flame(胸いっぱいの愛)」バングルス
1989年「It Must Have Been Love(愛のぬくもり)」ロクセット
1989年「If I Could Turn Back Time(ターン・バック・タイム)」シェール
本作は特に80年代を舞台にした作品というわけではないのだが、選ばれた楽曲は見事に1981年から89年の間にリリースされたものばかり。MTVの放送が開始されたのが1981年8月であることを考えれば、この選曲からは明らかに80年代〜MTV全盛時代のヒット曲へのオマージュ的な意図を汲み取ることができる。
しかしそういったことを抜きに考えても、本作のトーンには80年代音楽の持つある種の楽天性とか“軽さ”がマッチしていると思うし、先述のように歌詞と登場人物たちの心情のリンクぶりには驚かされる瞬間が多い。これはジョシュア・セント・ジョンストンによる脚本が、楽曲の詞世界にほどよく歩み寄った成果だろう。
オリジナルのアレンジを尊重しながらも現代的な音色にアップデートされることで“80年代の曲=薄っぺらなシンセ・サウンド”という色眼鏡を外し、楽曲のメロディそのものに耳が向かうようなサウンド・プロダクションが施されていることもポイントのひとつだ。
音楽監督と作曲を担当するアン・ダッドリーは、80年代にイギリスのポピュラー音楽界で仕事を開始。アート・オブ・ノイズやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、ジョージ・マイケル(本作でも大ヒット曲「Faith(フェイス)」が使用されている)、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョンらの作品で演奏や編曲、プロデュースを担当してきた人である。だからこそ、劇中で使用されている楽曲の“聴かせどころ”を誰よりも熟知しているのだろう。懐メロに終わらないスタンダードとしての風格を楽曲に持たせることに成功している。
たとえば多くの人にとって“『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の曲”というイメージが強すぎるヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「The Power of Love(パワー・オブ・ラブ)」では、力強いシンセのリフをオーガニックな音色に変更。マッチョなヒューイ・ルイスの歌う博愛的な歌を、アナベル・スコーリーが歌うことで女性目線のまったく新しい曲として生まれ変わらせている。
ここで使われるヒット曲の数々を青春時代に聴いた40代のリアルタイム組(僕もです)は文句なく楽しめるだろうし、最近のレディー・ガガとの罵り合いでマドンナを知ったなんていうティーンエイジャーにも発見は多いと思う。これからの季節を大いに盛り上げてくれる最高のエンタテイメント作品として、世代を問わずおすすめしたい。(文:伊藤隆剛/ライター)
『踊るアイラブユー♪』は7月10日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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