(後編)83歳巨匠、ミシェル・ルグランのエネルギッシュな映画音楽に感服『チャップリンからの贈りもの』

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『チャップリンからの贈りもの』
(C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions
『チャップリンからの贈りもの』
(C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions

(…前編より続く)

ミシェル・ルグランは、現在83歳。フランスだけでなく世界中でその名を知られる、巨匠と言っていい音楽家だ。ジャック・ドゥミ監督によるミュージカル映画『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』をはじめ、『華麗なる賭け』や『栄光のル・マン』『三銃士』『愛と哀しみのボレロ』『プレタポルテ』『レ・ミゼラブル』などの映画音楽のほか、ピアニスト/コンダクターとしても「Legrand Jazz」や「I Love Paris」「Legrand in RIO」といったリーダー・アルバムを数多く残している。

【映画を聴く】83歳巨匠、ミシェル・ルグランのエネルギッシュな映画音楽に感服『チャップリンからの贈りもの』/前編

ここ日本でも“渋谷系”ブーム真っ只中だった90年代中盤、イタリアやフランスのマニアックなサウンドトラックなんかに混じって、多くのルグランのCDがリイシューされた。バスクベレーにボーダーシャツの“オリーブ少女”が、「I Love Paris」のジャケットをプリントしたトートバッグを肩にかけて闊歩していた時代の話だ。その「I Love Paris」や『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』あたりで展開されるスタイリッシュで洗練された作風は、確かにルグラン・サウンドの魅力を端的に伝えてくれるものだが、今回の『チャップリンからの贈りもの』ではより華やかでエモーショナルな楽曲が目立ち、音楽家としての幅広さ、奥深さに改めて気づかされる。繰り返し登場する印象的なメロディは『ライムライト』のテーマソングをモチーフにしたものだ。

本作では映像だけでなく音楽にも“チャップリン愛”が横溢している。エディが遺体誘拐の妙案を嬉々としてオスマンに語りかけるシーンでは、セリフをかき消すように唐突に音楽が切り込んでくる。これはサイレント映画を意識した演出であり、ルグランからグザヴィエ・ボーヴォワ監督に提案されたものだという。身振り手振りや表情だけで感情の機微を伝える必要があったサイレント映画よろしく、ここでは遺体を誘拐するという荒唐無稽な計画に心酔しきっているエディの表情が生き生きと映し出され、やたら派手なルグランのオーケストレーションがそれを引き立てる。映画における映像と音楽の関係性を根本的なところから見つめ直した名シーンと言っていいだろう。

83歳にしてルグランがここまでエネルギッシュな映画音楽を作り出したことは驚きだし、それを引き出したボーヴォワ監督もすごい。スタッフのチャップリンへのリスペクトが、とにかくすべての面で有機的に絡み合っているのだ。

映画も音楽も、過去の名作と呼ばれるものたちが顧みられることが極端に少なくなり、新しいものばかりがひたすら消費されるだけの現代にチャップリンが担ぎ出され、その作品に映画音楽のレジェンドであるミッシェル・ルグランが関わっていることの意味はきわめて大きい。本作をきっかけに、チャップリンの往年の名作やルグランの手がけたミュージカル映画を芋づる式に辿って見るような人が増えればいいと思う。(文:伊藤隆剛/ライター)

『チャップリンからの贈りもの』は7月18日より公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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