(後編)“歌ってみた”で大ブレイクのネ申ボカロ曲の実写化を“見てみた”『脳漿炸裂ガール』

#元ネタ比較

『脳漿炸裂ガール』
(C)2015映画「脳漿炸裂ガール」製作委員会
『脳漿炸裂ガール』
(C)2015映画「脳漿炸裂ガール」製作委員会

(…中編より続く)

若い客層を釣るコンテンツ、ボカロは今後も注目!

ニコニコ動画にアップされるや若い世代を中心に瞬く間にブレイクし、関連動画の総再生回数が4000万回を超えるボカロ曲「脳漿炸裂ガール」。ボカロの代名詞と言える初音ミクとGUMIことMegpoidの音源を使用したアップテンポでボカロ特有の早口のこの楽曲が、なんとボカロ史上初めて実写映画化された。

【元ネタ比較】(前編)“歌ってみた”で大ブレイクのネ申ボカロ曲の実写化を“見てみた”『脳漿炸裂ガール』
【元ネタ比較】(中編)“歌ってみた”で大ブレイクのネ申ボカロ曲の実写化を“見てみた”『脳漿炸裂ガール』

といってもこの楽曲自体は映画版の原案にとどまり、楽曲をノベライズしたライトノベルが映画版の原作となっている。このラノベは楽曲の歌詞から“携帯”や“マカロン”といったJKカルチャーを象徴するキーワードを掬い取って、かなり大幅にアレンジを効かせた学園サスペンス・アクションだ。

実写化で話題となったキャスティングは、主人公の冴えない女子高生の市位ハナは私立恵比寿中学のイメージカラー・オレンジの“おもち”こと柏木ひなた。超絶お嬢様の稲沢はなには『暗殺教室』など話題作に出演が続く注目若手女優の竹富聖花が扮している。

ツインテールのお嬢様で、ラノベ版の表紙イラストでは青緑色に塗られ、初音ミクのイメージが強いはな役に、どうしても炎上しやすいアイドルではなく、美人女優をキャスティングするとは上手いことやったもんだ。柏木ひなた&竹富聖花の“W主演”というのも大人の事情を感じる。

ラノベ版で描かれる冴えないハナのやさぐれ感が楽曲の歌詞が醸し出す鬱屈した女子高生像と重なるところがあるが、映画版ではやさぐれ感は薄い。制服もラノベ版では、紺ブレにチェックのミニスカとこちらが女子高生像に求めるアイコンを身にまとっているが、映画版では紺色に白い襟のお嬢様らしいセーラー服となっている。

そもそもストーリーからして、デスゲームが繰り広げられる学園サスペンス・アクションは楽曲のイメージからは遠い。動画の実写PV版は、刹那的で残酷で壊れた女子高生のイメージがあって、当然かもしれないがこちらのほうが楽曲のイメージには合っている。どうも映画版と楽曲はズレを感じる。映画版で楽曲が生かされていると感じるのは、“花いちもんめ”などさまざまなデスゲームの映像が矢継ぎ早に断片的なカットで映し出されるなか、楽曲が流れる強迫神経症的なシーンぐらいだろうか。

楽曲≒ラノベ≒映画なわけだが、楽曲≠映画というほど映画版では楽曲の要素は薄まっているのだ。しかし、考えてみれば、やさぐれ感も女子高生らしい制服も精神崩壊的なイメージも、大人が見てみたい女子高生像なんじゃないだろうか?「脳漿〜」は大人の間では知名度は低く、映画版の観客ターゲットはもちろん若い世代だ。若い世代が見たくなる映画版『脳漿〜』でなきゃ、製作する意味がない。このスタンスも大人の事情として正解なのだろう。

デスゲーム敗者が撃たれて飛び散る脳漿は映画版では透明なゲル状になっているが、歌詞のように“紅い華が咲き乱れて 私は脳漿炸裂ガール”といった具合に赤くリアルな脳漿が飛び散れば、映倫指定の年齢制限がかかり、若い世代が見られなくなったかもしれない。“マルキ・ド・サド 枕仕事 ”“もっと激しく脳汁分泌させたら 月の向こうまでイっちゃって”などのきわどい歌詞まで映画化していたら、それこそ年齢制限がつくだろうが、そんなヘマもやらかしてはいない。

また、ラノベ版で細かく描かれていくデスゲームも前述のシーンで省略されてコンパクトにまとまり、上映時間は77分と短めで現役中高生も飽きずに見ていられる長さだ。オジサン・オバサンがつべこべ言うのはやめておこう。

オリジナルもエビ中のカバーバージョンも「脳漿〜」が2回も楽しめる映画版を見て、厨房が基地ってくれればそれでいいのだ。なぜなら“どうせ100年後の今頃には みんな死んじゃってんだから アイヤイヤ〜”!

それにしても安室奈美恵が初音ミクとコラボしたり、大人の事情を抱える大人たちが、ここに来てようやくボカロは若い世代を引き込むコンテンツだと気づき始めたんだろうか。初音ミクの卒業ソング「桜ノ雨」も今年中に実写映画化されるのだとか。こちらはノベライズでも、名前もそのまま初音ミクをモデルにした未来や、Megpoidや鏡音リン・レンら人気ボカロをモデルにしたキャラクターが登場するだけに、キャスティングが注目されるところだ。

ボカロ楽曲を映画化するなら・・・そうだ、“・・・みーっつっけた”! シアトリカルな楽曲で物語性の高い「Bad ∞ End ∞ Night」から始まるナイトシリーズを映画化するのはどうだろう? いや、まったく趣向を変えてハニワことHoneyWorksの青春キュンキュン系のボカロ楽曲の映画化も観てみたい・・・と思っていたら、ハニワの「┗|∵|┓告白予行練習」を中心とする告白実行委員会シリーズが劇場アニメ化されるニュースが飛び込んできたじゃないか! ktkr! 2016年春公開予定がいまから待ち遠しい! キタタタタ━━━(((((゚(゚(゚(((゚∀゚)))゚)゚)゚)))))━━━!!!!!!(文:入江奈々/ライター)

『脳漿炸裂ガール』は7月25日より全国公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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