『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
アメリカン・ポップス界のレジェンド、ビーチ・ボーイズのリーダーであるブライアン・ウィルソンの半生を描いた伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』が、ついに日本でも公開された。
『JIMI:栄光への軌跡』(ジミ・ヘンドリックス)、『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(ジェームス・ブラウン)、『グッバイ・アンド・ハロー 父からの贈りもの』(ジェフ・バックリィ)、『ジャージー・ボーイズ』(フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ)など、このところ有名ミュージシャンを題材とした見応えのある伝記映画が相次いで公開されているが、本作はその真打ちと言っていいタイミングでの登場となる。彼の実績や影響力を考えれば遅すぎる映画化と思えなくもないが、待っただけの甲斐はある、素晴らしく感動的な作品だ。
とは言ってもこの映画、ブライアン・ウィルソンとビーチ・ボーイズがポピュラー音楽界に残した偉大な足跡を辿ったものではない。グループが世界的に輝かしい成功収めた様子は、冒頭の何分かで描かれるに止まっている。本作の中心は、天才的な表現者であると同時に数々のトラウマを抱えたブライアン・ウィルソンという1人の孤独な男の内面描写にある。
60年代半ば、ドラッグに溺れて自我を崩壊させていく20代のブライアンと、80年代後半に精神科医のユージン・ランディによってマインドコントロール下に置かれた40代のブライアン。それらが交互に淡々と描かれていく。20代のブライアンを演じるのは21歳の若手俳優、ポール・ダノ。40代のブライアンを演じるのはおなじみのベテラン、ジョン・キューザック。
映画を見る前には、わざわざ“二人一役”にすることの意味がよく理解できなかったのだが、見てみて大いに納得した。この2つの時代では、彼の置かれた状況はまったく違う。20代のブライアンが幻に終わった伝説のアルバム『Smile』の制作に行き詰まってどこまでも“闇”に堕ちていくのに対して、40代のブライアンは後に妻になるメリンダとの出会いによって微かな“光”を見出している。ビル・ポーラッド監督は、この2つの時代をまったく別の物語として同時進行させることで対比し、20代のブライアンの味わった底知れぬ挫折を40代のブライアンがメリンダや家族、友人の“愛と慈しみ”を得て乗り越えようとする姿を真摯に描ききっている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】(後編)まるでドキュメンタリー! B・ウィルソンとビーチ・ボーイズの真実をリアルに描いた『ラブ&マーシー』
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は8月1日より公開される。
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