何か大きな事故や事件が起きると、直後からテレビニュースなどで必ず「視聴者提供」の映像が登場する。カメラ付き携帯やスマホの普及で、今や誰でも映像を撮る時代だが、アメリカでは素人ではなく、事件事故発生と同時に現場に駆けつけてカメラを回すプロがいる。『ナイトクローラー』は、ロサンゼルスで凄惨な現場を撮影し、高額でテレビ局に売りつける男を通して、現代社会の闇や倫理観を問う社会派サスペンス作だ。
主人公・ルイスは、仕事もなく、学歴もない男。饒舌だが誰からも軽んじられ、目だけを異様に光らせた痩せっぽちの彼は、偶然知った衝撃映像専門のカメラマンという仕事を天職と確信し、カメラを入手するや何の知識もないまま、現場に飛び込んでいく。
実際、勘は悪くない。いつの間にかベテランを凌ぐスクープ映像を撮り、何のコネもないテレビ局にゴリ押しで売り込み、のし上がっていく。人の神経を逆なでするような笑顔で厚かましく、視聴率が欲しいテレビ局スタッフを手玉にとり、事情も知らずに雇われたナイーブな青年をアシスタントとしてこき使う。他人の気持ちなど関係ない、自分が他人にどう思われるのかも意に介さない。正真正銘のサイコパスが目を輝かせて、いきいきと仕事に打ち込む躁状態の姿は、ただただ不気味。あのテイラー・スウィフトの元カレの1人でもあるイケメン&インテリ(コロンビア大学出身)のジェイク・ギレンホールが、“キモい”という形容詞が一番ピッタリくるアンチ・ヒーローを怪演する。
社会の規範や倫理など無視して、よりショッキングな映像を撮るためなら法を犯すのも厭わないやり口は、日本ならば“マスゴミ”などと罵られるのは必至だが、ルイスにとっては“叩いてくる相手はむしろ上得意”くらいの認識だろう。稼いで設備投資もできて、「ありがとうございます」と薄気味悪い笑みを浮かべて言うかもしれない。フェアであること、あるいは良心の呵責など、彼にとっては負け惜しみの言い訳でしかない。
モンスターそのもの主人公の暴走は空恐ろしいが、馬鹿にされ通しだった負け犬が1つのことに情熱を傾け、ステップアップしていく、と言い換えてみるとどうだろう。きれいに取り繕うと、みんなが大好きなサクセス・ストーリーそのものだ。演じたジェイク自身、「ルイスは“アメリカン・ドリーム”の産物だ」とインタビューで語っている。「型通りの成功を得るためならルーは何でもする。彼みたいな人間がアメリカで最も成功する企業家になると思うんだ」という意見には大きくうなずける。
監督は『落下の王国』、『リアル・スティール』などの脚本家で本作も手がけたダン・ギルロイ。監督デビューを飾る本作で、物事の裏側に隠された醜い姿をむき出しにして見せた。夜の街を這うようにうごめく男たち、ほの暗い闇と光を映し出すロバート・エルスウィットの映像も素晴らしい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ナイトクローラー』は8月22日より公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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