女優の松岡茉優と是枝裕和監督が10月31日、第35回東京国際映画祭にて実施されたTIFFスペシャルトークセッション ケリング「ウーマン・イン・モーション」に登壇。監督と女優という異なる立場から、日本映画界における課題や未来について語り合った。
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是枝裕和監督「フランスは原則8時間労働、韓国は週52時間」
今年は2018年のカンヌ国際映画祭パルム・ドールをはじめ、国内外の数々の賞を受賞している映画監督・是枝裕和と、是枝監督の『万引き家族』(18年)などに出演し、その演技力が高く評価されている女優・松岡茉優がゲストに登場。来年1月12日配信予定のNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』でも一緒に仕事をした二人。国内外を問わず、活躍する映画人として、大きな拍手を浴びながら登壇した。
2018年にパルム・ドールを受賞後、フランス、韓国と2作品連続で海外の制作現場を経験した是枝監督は、日本との大きな相違点として、「フランスは原則8時間労働、韓国は週52時間という条件が決まっており、2国とも働き方の環境が整えられていてそこが大きな違い」と挙げ、「自分の撮影現場の環境をどのように変えていくか、というのが課題になった一年だった」と語った。松岡が「日本では今までも2週間や10日ほどで映画を撮影することもあり、短期間で集中できる環境があることは必ずしも悪いことではないのでは?」と疑問を投げると、「文化祭を成し遂げたときのような達成感や仕事以上のつながりが生まれることもある」と認めつつ、「その現場に入ることで、何かを犠牲にしていることもあり、そのことはすでに看過できない状況。韓国では適度に休みながら撮影したが、それでも一体感は生まれた。次の世代が働く場所として『そんな大変な職場で働くなんて』と言われない環境を作る責任がある年齢になったと思う」と監督自身の経験をもとに意見を述べた。それに対し松岡もすかさず「年齢を問わず私にも責任を背負わせてください」とコメント。「若い世代がこのような発言をすると、生意気だとか硬いとか言われてしまう。私たちのような同世代の人が発言しても、びっくりされないような世の中になってほしい。まだ意見を言わないほうがベターだと思われる」と語った。
今の日本映画界におけるパワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどの問題に関して意見を求められると是枝監督は「声をあげやすいようにする、声をあげた人が不利益を被らないようにするサポートがもっと必要」と主張。「自分の現場でもリスペクトトレーニングを実施したり、(日本には二人しかいない)インティマシー・コーディネーターに入ってもらい、脚本のなかで感情に負荷のかかるシーンをチェックしてもらう作業からお願いした。どんな目が入ることで、どう現場に作用するか、良い現場になるように検証している」と語った。
松岡も出演する『万引き家族』の脚本についても、当時の撮影において何か改善点があったのかなど、インティマシー・コーディネーターに相談したと明かし、「話を聞くだけでも、女優さんが負荷を感じる点など自分では気づけないことを提案してもらえるので、相談がしやすい」とその役職の重要性を示した。加えて松岡さんも「心を使う仕事だから気持ちに浮き沈みがあるのは当たり前だと思っていたが、その当たり前も変わっていけるのならばとても喜ばしいこと」と俳優という立場からインティマシー・コーディネーターの今後の活躍に希望を示した。
これからの日本映画界について聞かれると、是枝監督は「働き方改革は進んでいくが、進んでいくがゆえに作られなくなる映画が出てくる」と危機感を述べ、「このままの状態では、日本映画界は10年続かないだろうと危機感を持った監督が集まり、『action4cinema』を立ち上げた。若手の人材を集めるためにどうするべきか、未来図、危機感を共有して、まずは意識を高めていくという活動をこれからも続けます」と今後の展望を語った。松岡は「特に男性が多い役職の女性スタッフは、子どもを持ちたい時など育休制度が備わっておらず、仕事か家庭のどちらかしか選べない人も多い。男女問わず休めて、子供を預けたり育てながらできる現場づくりをしたいと思います」と述べた。また、これからの映画界で女性がより活躍するためには「話し合いができる、お互いに耳を傾けられる映画界であってほしい」とコメント。未来を担う俳優として臆することなく自身の意見を主張した松岡に対し、是枝監督は「若い役者が自分の考えを違和感も含めて話せるようになってきたのは、とてもすばらしいこと。そのことを応援していただきたいし、そのためにはぜひ映画を見に来てほしい」と観客に語りかけた。