田口トモロヲの映画だから、と期待して見る人からすると、加藤ミリヤが峯田和伸をフィーチャリング・ヴォーカルに迎えて録音した主題歌「ピース オブ ケイク −愛を叫ぼう−」(作詞=加藤ミリヤ&峯田和伸、作曲=大友良英)の起用は、かなり意外に思えるかもしれない。それは加藤ミリヤというアーティストが、田口監督の映画とも峯田率いる銀杏BOYZの音楽とも遠くかけ離れた、あまりにメインストリームな存在に思えるから。しかし彼女はもともと原作だけでなく、田口監督作品や峯田の音楽(銀杏BOYZだけでなくその前身バンド、GOING STEADYも含めて)のファンだったらしく、強い思い入れを持ってこのプロジェクトに参加したという。
・【映画を聴く】(前編)役者も音楽も、意外な組合せが魅力! 田口トモロヲ監督渾身の第3作目『ピース オブ ケイク』
これまでスピッツ「ロビンソン」やブルーハーツ「リンダリンダ」、安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」といった誰でも知っている有名曲をサンプリングという手法で巧みに楽曲に盛り込んで発表してきた加藤ミリヤは、サウンドの方向性もR&Bやヒップホップ、四つ打ちテクノ、ラウド・ロックなど楽曲ごとに大きく変化するため、熱心なファンでなければそのすべてをフォローするのは難しいアーティストだと言える。しかしそれは逆に音楽的な受け皿が広いとも言えるわけで、本作では彼女のそんな資質が良い方向に生かされている。
加藤と峯田がそれぞれに歌詞を書き、それを大友が曲として仕上げたという「ピース オブ ケイク ー愛を叫ぼうー」は、基本的にダビングなしの一発録りでレコーディングされたとのことで、峯田も「完成するまでの過程に何度のミラクルがあったでしょう」とコメントしている。三者三様の個性がぶつかり合った、物語の内容そのものと言っていいこの楽曲を聴くだけでも、映画の充実ぶりを察してもらえるに違いない。
これまでの2作よりも、明らかに幅広い層に親しまれるであろう田口監督の『ピース オブ ケイク』。早くも次回作への期待が高まる。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ピース オブ ケイク』は9月5日より全国公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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