(…前編より続く)
4人組が大ファンのクリープハイプは、昨年4月に武道館2DAYSを成功させるなど、すでに多くのファンを持つ人気バンドだが、松居監督とのコラボレーションは2012年のメジャーデビュー時から始まっている。松居監督が彼らの「オレンジ」「社会の窓」「憂、燦々」といった楽曲のMVを手がけているほか、2013年にはバンドのフロントマン、尾崎世界観の原案を松居監督が映像化した群像劇『自分の事ばかりで情けなくなるよ』も公開。互いの作品に深く関わり合っているだけでなく、プライベートでも仲がいいという。
・【映画を聴く】(前編)見ている方まで“ハァハァ”必至! 女子高生4人による青春ロードムービー『私たちのハァハァ』
クリープハイプを形づくるコアな部分を映像化した『自分の事ばかり〜』に対して、今回の『私たちのハァハァ』はファン、つまりバンドの“外側”を描くことでクリープハイプそのものに近づくアプローチが取られているが、そこにはっきりした答えやメッセージが用意されているわけではない。
完成後、SPACE SHOWER NEWSでの松居監督と尾崎の特別対談の中で、尾崎が「彼女たち4人が福岡から東京に向かうことで物理的な距離は近くなるが、実際に東京にたどり着くラストシーンでは心理的な距離がずっと遠くなっている」と本作の構造を客観的に分析しているが、その関係性こそが本作を青春映画として成立させていることは間違いない。この映画のために書き下ろされた主題歌「わすれもの」は、劇中での両者(4人組とクリープハイプ)の関係を、実際のクリープハイプが俯瞰して歌っているような楽曲。すべてを優しく受け入れるような歌詞がとにかく印象に残る。
なお、この「わすれもの」は、今月末にリリースされるクリープハイプのシングル「リバーシブルー」に収録されるということだが、松居監督が手がけたMVの一部がいち早く公式サイトなどで公開されている。チエ、さっつん、文子、一ノ瀬の4人が登場するこのMVは、映画本編の半年後を描いており、サブテキストとして本編と併せて見ておきたい内容になっている。(文:伊藤隆剛/ライター)
『私たちのハァハァ』は9月12日より全国公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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