(…前編より続く)
少年合唱団を題材とした物語なので、劇中でかかる音楽はクラシック系の合唱曲が中心だ。ブリテン「キャロルの典礼〜IVa生まれたての赤ん坊が」「同〜IVbこもり歌」「同〜VIこの小さな赤ちゃんは」、ワーグナー「パルジファル」、ヘンデル「ジョージ2世の戴冠式アンセム」「アン女王のアリア」「メサイア」、メンデルスゾーン「エリヤ」など、誰もがどこかで一度は耳にしたことがあるポピュラーな曲が多く選ばれている。加えて合唱団が日本ツアー用の練習曲として、わらべ歌の「ほたるこい」を輪唱するシーンなども出てくるので、クラシックを普段聴かないという人でもすんなり物語に入っていけると思う。
・【映画を聴く】(前編)必見&必聴! 二度と戻らない少年時代を奇跡的に封じ込めた『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』
エンディング・テーマは、クラシック畑で圧倒的な人気を誇る歌手のジョシュ・グローバンが担当。オリンピックの閉会式やメジャーリーグのワールドシリーズの開幕戦でも歌声を披露するほどの国民的スターである彼が、ここでは音楽監督のブライアン・バーンと共作した「ミステリー・オブ・ユア・ギフト」をアメリカ少年合唱団とともに歌い、物語に清々しい後味を添えている。
8月の上旬、本作のPRのためフランソワ・ジラール監督とともに来日したギャレット・ウェアリングの姿をあちこちのウェブサイトで見かけて、その成長の早さにずいぶん驚かされた。身長は見違えるほど伸び、髪もすっきりと短く整えられている。劇中で重要な意味を持つ“高いレの音”も、もう出なくなったそうだ。その事実だけで取っても、本作に封じ込められた少年期のピュアネスがいかに貴重で、何にも代え難い輝きを秘めているかが分かる。これは自分以外の誰かを描いた“作り話”なんかではなく、見る人すべてに関わるかけがえのない“寓話”である。そう言ってしまいたくなるような強度を持つ逸品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』は9月11日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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