さらなる飛躍を期待して、
劇場版『あの花』から新作へ!
(…前編より続く)テレビシリーズ放映からじわじわと人気が広がり、劇場版は興行収入10億円を突破する大ヒットとなったオリジナル・アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下『あの花』)。この作品によりヒットメーカーとなった監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀の手によって、完全オリジナルストーリーによる劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)が生み出された。『あの花』に引き続き、ファン待望の新作を手がけたプロデューサーである、アニプレックスの斎藤俊輔氏が製作秘話について深く熱く語ってくれた。
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作品の舞台となった埼玉県秩父をファンが訪れ、“聖地巡礼”するといった社会現象まで巻き起こした『あの花』だが、斎藤氏はヒットの手応えをどの段階で感じたのだろうか?
「まずは、テレビシリーズ1話目の放送直後ですね。放送直後にパッケージの情報を解禁したのですが、AmazonさんのBlu-ray・DVD予約ランキングがみるみる上がり、1位を獲得したんです。それを見て、この作品は人気が出る!と確信しましたね。ただ、正直ここまで広がるとは予想してませんでした。その後、劇場版の興行収入は目標の約2倍を叩き出してくれたし、あと、日常的に街の美容室や飲食店などで話題にしてるのを耳にすることもあって。コアなアニメファンだけでなく、普段はアニメを見ない方も見てくれてるという広がりを感じます」と斎藤氏は嬉しそうに微笑んだ。
一般に広がる『あの花』現象はいまだ衰えることなく、実写ドラマ化が決定し、9月21日にフジテレビ系列にて放送を予定。このニュースは世間的にも注目を集め、『あの花』ファンはどんな仕上がりなのかと気が気でない日々を送っている。斎藤氏としても「このドラマの作品作りには深くは携わってないんです。『あの花』をドラマ化したいとフジテレビさんに言っていただいて、とても強力なスタッフ、キャスト、そして放送枠でそれを実現していただいて、ただただ感謝している」のだそうだ。
ここで、『あの花』の大ヒットの勝因はどこにあると自己分析されているのか尋ねてみると、斎藤氏は一瞬困ったような表情を見せた。そして、しばし熟考してから、ストーリー、キャラクター、演出、音楽、さまざまな要素があると述べたあと、「放送開始されたのが2011年4月で、3.11のすぐ後なんです。僕は福島県出身で、水難事故を扱うこの作品を放送していいのかと悩んだこともありました。でも、『あの花』の涙を流させる力と、あのとき日本を覆っていた空気がうまく呼応したからじゃないでしょうか。まったく個人的な意見ですが」と、静かに語ってくれた。
そんな『あの花』の大ヒットを受けて、新作のオリジナル劇場アニメ『ここさけ』がこのたび公開となる。製作が決定したのは『あの花』のテレビシリーズ放送終了直後ぐらいだそうで、「長井監督、岡田さん、田中さん、3人の作品がまた見たいです。今度はテレビじゃなく、映画で」と伝えたのだそう。しかし、実はその後から、『あの花』の劇場版を製作することが決まった。「ファンの方への感謝の気持ちで劇場版を製作したのですが、ホップ・ステップ・ジャンプと段階を踏んでいくイメージで、劇場版『あの花』は次の作品への架橋になるとも思いました。言うならば、細田守監督も『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』と、徐々にステージを上られていったように。この3人のクリエイターにも劇場版『あの花』で映画を経験して、次に『ここさけ』で再び映画という舞台で思いっきりやってもらいたいと思ったんです」。
3人の実力への信頼があり、「新作はオリジナル・ストーリーで『あの花』のような青春モノで」というシンプルなオーダーだけで『ここさけ』は始動した。「こういうものを作りましょうと僕がリードするのは違うと思いました。3人が作りたいものを作っていく過程を、プロデューサー陣みんなでバックアップしていきました」と斎藤氏は話してくれた。僕の意見なんて採用されないだろうし、と謙遜して笑いながら。
『ここさけ』の物語は斎藤氏の言葉を借りれば「それぞれが言葉のトラウマを抱えながら、青春の痛みとみずみずしさと共に、一歩だけ、半歩だけと前に進んでいく。伝えたいことを勇気を出して伝える」青春ドラマだ。
『あの花』とテーマは似ているが、ファンタジー色は薄く、高校生のよりリアルな感情を描いた作品となっている。斎藤氏は言う、「『あの花』と同じものを作っても意味がないですから。さらなる進化というか発展を求めました。今回は“泣ける”のが一番前に出ているドラマではありません。もちろん『ここさけ』も泣けるんですが、よりリアルで心に深く響く作品になったと思います」。
作品のテイストもさることながら、今回は劇中でミュージカルが行われ、歌のシーンも多い。クリエイターからミュージカルの案が出たが、具体的に動き出したのはクラムボンのミト氏が音楽担当として加わってからとなった。ただ、斎藤氏も音楽のついた状態を見るまでは不安があったという。
「監督も含めなかなか全貌が見えない中の作業だったので、制作を進めていくのもとても困難でした。でも、実際に目の当たりにすると、不安は吹き飛びましたね! 素晴らしくて、劇中で音楽の先生がミュージカルは奇跡を起こすと言いますが、身を持って体感しました!」と斎藤氏は目を輝かせた。
劇中のミュージカルの曲は、ベートーヴェンの「悲愴」や「Over The Rainbow」などといった、耳馴染みのいい曲なのがまた心地いい。『あの花』のエンディングでZONEの「secret base 〜君がくれたもの〜」を使用したカバー曲のように、既成曲を効果的に利用するのが上手い。……と思ったら、取材が終わった数日後に『ここさけ』の主題歌が乃木坂46の「今、話したい誰かがいる」に決定したことが発表された! なんと、そうなのか〜! この主題歌について、もっと突っ込んで話を聞きたかったぁぁぁ〜!(…後編へ続く)(文:入江奈々/ライター)
・【映画作りの舞台裏】後編/ポスト・ジブリ!?『あの花』旋風を巻き起こした若手プロデューサーが『ここさけ』への熱い想いを語る
『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より全国公開される。
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