『あの花』チームの最新作『心が叫びたがってるんだ。』
オープニングから提示する大人の味わい
丘の上のお城から始まるオープニング、幼少期のヒロイン・順はお城の王子様とお姫様に憧れてワクワクと頬を高揚させる。しかし、これはロマンチックでもメルヘンチックでもなんでもないシーンなことは一目瞭然。“丘の上のお城”は一見してわかる古いタイプのラブホなのだ。頬を高揚させる順のバックには“ご休憩−○○円 ご宿泊−○○円”のお決まりの料金表がデカデカと書かれている。
そしてここから一連の悲劇が始まる。順は“お城”からお父さんと女性が出てくるところを見かけ、純粋に「お父さんは王子様だったんだ!」という嬉しい発見をお母さんに告げる。その順のおしゃべりがきっかけで両親が離婚することになり、ひとり罪の重圧に苦しむ幼い順の前に“王子”ならぬ“玉子”の妖精が現れて、2度と人を傷つけないようにおしゃべりな口を封印されることとなる。
これは劇場用オリジナル・アニメ『心が叫びたがってるんだ。』の序盤だ。本作は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の長井龍雪監督、脚本の岡田麿里、キャラクターデザインの田中将賀の3人が再結集して贈る新作アニメ。ライトノベルを原作とするテレビアニメシリーズ『とらドラ!』を手がけた長井監督・岡田・田中ら3人が組んだ2作目、2011年に放送されたテレビシリーズのオリジナル・アニメ『あの花』は、“大人も泣けるアニメ”として口コミで広がり、人気はうなぎ登りとなった。物語の舞台である埼玉県秩父を“聖地巡礼”としてファンが訪れるなど、社会現象にまで発展。ファンの要望に応えるように公開された劇場版『あの花』はアニメファンのみならず、幅広い層に支持されて予想を超えるスマッシュヒットを放った。
そして、『あの花』の大ヒットを受けて長井監督・岡田・田中の3人が製作に当たった、ファン待望の劇場用新作オリジナル・アニメ『心が叫びたがってるんだ。』が、19日より公開される。
序幕から誘われるのはストレートに本作の主題、トラウマを抱えて失声症となった少女・順の物語だ。大人向けでブラックで重い、このオープニングだけで『あの花』の二番煎じとは思われたくない、という作り手の本気度が伺える。新作『ここさけ』は前作『あの花』と差別化が図られ、単なる真似事にはなっていないのだろうか……?(中編へ続く…)(文:小野田礼/映画ライター)
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『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より全国公開される。
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