“あなる”のあだ名をそのまま使用の勇気は買いたい
でも、足早で雑な展開に温度差は開くばかり…
(…中編より続く)社会現象まで巻き起こし、テレビシリーズも劇場版も大ヒットした『あの花』の通称で知られる『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。監督、脚本、キャラクターデザインが再び結集した『心が叫びたがってるんだ。』がこの秋に公開され、また注目が集まっている。そして、ここへきて、『あの花』実写ドラマが製作され、フジテレビで放送された。製作発表時から、元ネタのファンは実写ドラマ化に不安を募らせて炎上したが……。
・【元ネタ比較】(前編)不安だらけの実写版『あの花』がついに放映。予想通りの出来映えを完全レポート
・【元ネタ比較】(中編)不安だらけの実写版『あの花』がついに放映。予想通りの出来映えを完全レポート
ファンの不安をよそに、『あの花』ドラマはのっけからつんのめって展開のスピードを速めていく。めんまの成仏のためにめんまの願いを思いつくシーンや超平和バスターズが再び結束を固めるシーン、あなるのじんたんへの想いを伝えるシーンも駆け足過ぎて、視聴者はよく飲み込めないまま置いてけぼりになってしまう。しかも、それだけでなく、感情の表現がストレートで雑だ。おそらく、2時間強にまとめなきゃという焦りからわかりやすくすることになり、ストレートな表現になったのだろう。でも、『あの花』はもやもやとした思いをそれぞれが抱えていてなんぼの物語なのに。これではラストに向けて高めていくカタルシスも、テレビの画面の中だけ熱く、視聴者との温度差は開くばかりだ。
ドラマの支柱が頼りないだけでなく、細部も残念。じんたんのトレードマークのゆるワードの入ったTシャツは、マジックで書いたの?と思えるようなクオリティだったり、やけに緻密なイラストだったり、一定せずにノイズとなる。
お遊び感覚で登場させたであろう、レストランの店員役の『ここさけ』ヒロイン・順役の水瀬いのりはちょい役過ぎて効果なし。これではステルスマーケティングにもならないだろう。『あの花』でも『ここさけ』でも嫌な母親役を演じている吉田羊の使い方もなんだかもったいない。
すべて見終わってもこちらの心は冷え切ったまま、やはり全体的には、思った通りの残念な結果となった。良かったのはアニメ版と同じく舞台が秩父であり、実在の場所だから違和感もなく、すんなりと物語に沿っていること。そして、懸念された“あなる”のあだ名はそのまま使用され、9時台のお茶の間に何度も“あなる”という言葉が響いたが、元ネタ通りにした勇気は買いたい。
また、ゴリ押しするだろうと思っていた『ここさけ』の宣伝はCN中に予告編が流れただけであった。番組終了後にここぞとばかりに宣伝があるかと思ったが、番組はドラマの余韻もなく、「このドラマはフィクションです」というお決まりで当たり前過ぎる文句が表示されてあっさり終了。『ここさけ』がこのドラマの関連作ということでは、ウリになるどころか逆効果となること必至だから、アピールせずにおいてくれて、元ネタファンとしては胸をなでおろした。
気を揉まされた『あの花』ドラマ化は予想通りの結果となったが、アニメファンははなから期待していないし、一般層に『ここさけ』とのつながりがある印象は与えなかったため、『ここさけ』に大きなダメージを及ぼさなかったことは不幸中の幸いだろう。(文:小野田礼/ライター)
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