9月19日の公開以来、順調に観客動員数を伸ばしている“ここさけ”こと『心が叫びたがってるんだ。』は、テレビアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称“あの花”)のメインスタッフ(監督=長井龍雪/脚本=岡田磨里/キャラクターデザイン=田中将賀)が再集結して作り上げた、待望の長編アニメ作品。言葉という不確かな伝達手段の大切さと危うさ、そして“叫びたい”という若さゆえの衝動を描いた青春群像劇だが、あらゆる年代の男女に何かしら訴えかけるところを持った、早くもスタンダード的な風格すら漂う作品だ。
自分のおしゃべりが原因で家族がバラバラになり、“玉子の妖精”に声を封印されてしまったヒロイン=成瀬順が、高校の主催する「地域ふれあい交流会」の実行委員に選ばれ、出し物のミュージカルで主役もつとめることに。“しゃべること”はできないけれど、なぜか“歌うこと”はできると知った順は、同じく実行委員に選ばれたクラスメイト=坂上拓実の力を借りながら、“自分が本当に叫びたいこと”を言葉に置き換えていく。そんな順の姿を見て、最初はやる気のなかった他の生徒たちも、次第に心をひとつにミュージカルの成功を目指すようになる……。
あらすじだけを聞くと、いかにもありふれた学園ドラマに思えてしまうが、各キャラクターの確かな人物造形や言い回しの機微、緻密かつ重層的に構築されたストーリーライン、そして後述するクォリティの高いミュージカル・パートによって、何でもない題材が深みと幅を持ち、スケールの大きな作品へと飛躍している。
主役の順を演じるのは、テレビアニメ『ご注文はうさぎですか?』のチノ役や『がっこうぐらし』の丈槍由紀役などで知られる水瀬いのり。20歳の誕生日である12月2日には歌手デビューも決定している水瀬は、本作が劇場アニメ初主演。そのみずみずしい演技で順の不安定かつ未成熟な内面を丁寧に表現している。吉田羊がゲスト声優として、順の母親役を演じているのも話題だ。また、主題歌には乃木坂46の「今、話したい誰かがいる」が起用されている。(文:伊藤隆剛/ライター)
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