【週末シネマ】未熟な騎士が残酷な遊びから始まった旅で得たものは?

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グリーン・ナイト
『グリーン・ナイト』
(c) 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved
グリーン・ナイト
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中世を舞台にしたダークファンタジー『グリーン・ナイト』

「武士道と云うは死ぬ事と見つけたり」とは「葉隠」の有名な一節だが、では騎士道はどうなのか? イギリスのアーサー王伝説に登場する、王の甥である青年ガウェインが主人公の『グリーン・ナイト』にはその答えがある。

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作者不詳の14世紀の叙事詩「ガウェイン卿と緑の騎士」を、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(17年)のデヴィッド・ロウリー監督が脚色も手がけた作品だ。「指輪物語」の作者であるJ・R・R・トールキンが現代英語に翻訳して以来、広く親しまれている物語に独自の要素を加えた本作は、中世を舞台にした幻想的なダークファンタジーであり、ある種の成長物語として時代を超える普遍性もある。

クリスマスの首切りゲームに挑んだ若き騎士は約束の旅へ

物語はクリスマスから始まる。アーサー王の甥だが、まだ正式な騎士でもなく、放蕩三昧の青年ガウェインは円卓の騎士たちが集う王の宴に出席する。立派な騎士たちが居並ぶ中、王から「お前の物語を聞きたい」と言われても、「語るべき物語がありません」と気後れしながら答えるしかない。そこに突如現れたのが、全身が草木に覆われたような異様な姿の緑の騎士だった。

その騎士は一同に「クリスマスの遊び事を楽しもう」と首切りゲームを持ちかける。緑の騎士に一撃を与えた者に栄誉と名誉を与えるが、1年後にその者は緑の騎士を探し出し、騎士からの反撃を受けるというものだ。誰もが怯む中、ガウェインは名乗りを上げ、王から託された剣で緑の騎士の首を斬り落とす。一度倒れた緑の騎士は自らの首を拾い上げ、高笑いしながら去っていった。そして1年後、ガウェインは約束の旅に出る。

主演は『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル

ガウェインを演じるのは『スラムドッグ$ミリオネア』や『LION/ライオン~25年目のただいま~』などのデヴ・パテル。旅の途中で不思議な出会いを繰り返し、さまざまな困難や誘惑に見舞われながら、自身の勇気と騎士道精神と向き合っていく主人公の成長を演じる。ガウェインに関わる女性を一人二役で演じるアリシア・ヴィキャンデル、旅の終盤にガウェインが身を寄せる城の主人を演じるジョエル・エドガートン、アーサー王役のショーン・ハリスと女王グィネヴィア役のケイト・ディッキー、そして緑の騎士の威容を重厚に見せるラルフ・アイネソンも適材適所の配役で、主人公の幻想的な旅路を盛り上げる。

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アーサー王伝説の新解釈、新鮮で魅惑的な作品

大筋は原典に忠実ながら、ガウェインの母がモーガン・ル・フェイ(アーサー王の異父姉で魔術師)であったり、バリー・コーガンが演じる奇妙な盗賊や7世紀の聖女である聖ウィニフレッドとの邂逅など、ロウリーが新たに付け加えたエピソードが興味深い。ガウェインの旅の供となるキツネもミステリアスだ。

撮影はアイルランドで行われ、荒涼とした風景や実在する古い塔を効果的に使い、CGに頼りすぎることなく中世の空気を作り出している。緑という色は自然や未知なるもの、そして死への敬意も込められている。曇りがちな空とくすんだ色彩の中で目を引くのが生命を象徴するような草木の緑色だ。補色関係にある赤は血の色として、また邪悪な魔的な色として使われている。

ガウェインはやがて最終目的地にたどり着くが、そこからが本当の始まりとも言える。未熟だった青年が旅を通して知った騎士道とは? アーサー王伝説に詳しい方々にとっては新解釈として、何も知らずに触れる方々にもまた新鮮な世界として、観客を強く惹きつける魅惑的な映像と物語だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『グリーン・ナイト』は、2022年11月25日より全国公開中。

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