40回以上も計画、実行されたにもかかわらず、すべてが未遂に終わったという、アドルフ・ヒトラーの暗殺。映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』は、そんな実話のひとつを映像化した作品で、監督は『ヒトラー〜最期の12日間〜』のオリヴァー・ヒルシュビーケル。両作はヒトラーとその時代に別のアングルから光を当てた、合せ鏡のような関係にある。
本作の主人公は、実在した家具職人のゲオルク・エルザー。音楽やダンスをこよなく愛するごく普通の36歳の男が精密この上ない爆破装置を単独で作り上げ、「ミュンヘン一揆記念館」で恒例の演説を行なうヒトラーの暗殺計画を実行。悪天候のためにヒトラーはいつもより早く演説を切り上げて移動したため、暗殺は未遂に終わったものの、時限爆弾によってホールにいた8人が死亡する。その手口の巧妙さに、ドイツ秘密警察ゲシュタポはイギリスの国家的な関与を疑ったが、逮捕されたゲオルクは一貫して単独犯であることを主張する。
所属する政党も、確固たる政治思想もない男にこのような計画が本当に立てられるのか? 本作ではゲオルクの半生と彼に対する過酷な取り調べを交互に描きながら、彼の人間性や揺るぎない信念が形づくられていく過程を、徹底したしサーチを基に描き出している。
ゲオルク役は、ミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』などで知られるドイツの俳優、クリスティアン・フリーデル。ドイツの小さな村にまでファシズムが広がり、第二次世界大戦が勃発するという危機感をいち早く肌で感じていたゲオルクの知性と多くの人に愛された人間的魅力を、生き生きと大胆に演じている。
どこにでもいそうな男が誰にもできないようなことをしでかす、という点では『ショーシャンクの空に』でティム・ロビンスが演じたアンディにも通じるところがあるが、こういう人物があの時代に確かに実在したということを知らしめるという意味で、本作の価値はとてつもなく大きい。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』は10月16日より公開される。
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