ベネディクト・カンバーバッチ主演『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
19世紀末から20世紀にかけて、オリジナリティあふれるネコのイラストで人気を博した画家のルイス・ウェインの半生を描く『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』。夏目漱石にも影響を与えたと言われ、才能と信念と愛に生きた芸術家の波瀾万丈の生涯をヴィヴィッドに伝える魅力的な作品だ。
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ベネディクト・カンバーバッチが青年時代から晩年までのルイス・ウェインを演じ、若くして亡くなった愛妻エミリーをNetflixオリジナル『ザ・クラウン』シーズン1、2でエリザベス女王を演じたクレア・フォイが演じる。
ルイスはヴィクトリア朝のイギリスで上流階級に生まれた。発明や音楽に夢中の好奇心旺盛な青年だが、父親を亡くし、若くして妹5人を養わなければならなかった。イラストの才能を認められて新聞社の専属となった彼は、妹の家庭教師エミリーと恋に落ちるが、厳しい階級社会の中で身分違いの結婚は歓迎されず、2人は家を出る。だが、幸せな日々はエミリーが末期がんを宣告されたことで一変する。
絶望の中にいた夫妻は偶然1匹の子猫と出会い、ピーターと名づけて我が子のように可愛がる。やがて世間で爆発的な人気となったネコの絵の始まりは、病床の妻のためにネコの絵を描き始めたのがきっかけだった。
“不吉”とされていたネコの愛らしい絵で成功を収めるが…
今となっては信じられない話だが、当時ネコには不吉なイメージが強く、ネズミを獲るのだけが取り柄の動物と認識されていた。そんな時代にルイスはネコの愛らしい特徴を捉えてユニークな発想で描き、新聞に掲載されるや大人気を博したのだ。やがて闘病の甲斐なく、エミリーはこの世を去る。遺されたルイスは憑かれたようにネコの絵を描き続けて更なる成功を収めるが、やがて心を病み、多くの苦難に見舞われていく。それでも描き続けたルイスの純粋な美しさに胸を打たれる。
カンバーバッチが見せる表情、仕草、声、すべてが完ぺきだ。ルイスが感じる喜び、怒り、悲しみ、恐怖、そしてエミリーやピーターと共にいる時の優しさ、描く時の集中力に、見ているだけのこちらの感覚も同期するかのようだ。
ルイスにとって“電気”とは?
副題の通り、確かに彼は生涯を通して妻とネコを愛したのだが、もう1つ彼にとって大切なものは、原題に「The Electrical Life」とあるように“電気”だ。ルイスの考える電気とは、いわゆる物理現象であると同時に「人生の最も驚くべき秘密への鍵」であり、彼にとっては愛と同義であったとも取れる。
まさに電気が走り続け、ある意味、感電し続けた生涯をカラフルに描いた監督のウィル・シャープは日本人の母を持つイギリスの俊英。俳優、脚本家としても活躍し、平岳大が主演した海外ドラマ『Giri/Haji』(20年/Netflixで配信中)で英国アカデミー賞テレビ部門助演男優賞を受賞するなど、多彩な活躍が注目されている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』は、2022年12月1日より全国公開中。
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