現役時代には気づかなかったAV出演のリスク、元クイーン女優が今だから言えること
命に代えて守りたいものができたときに初めて知る重大さ
【日本映画界の問題点を探る/番外編/AV出演の本当のリスクとは? 1】通称「AV新法」と呼ばれるAV出演被害防止・救済法(※1)が施行されてから5ヵ月が経過し、いまなお業界の内外からさまざまな意見が挙がっている。そんな現状を踏まえ、かつてAV女優として一時代を築いた小室友里に話を聞いた。
※1 正式名称「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」
・意に沿わないAV出演を食い止めたい【AV新法に込めた思い】塩村あやか参議院議員に聞く
本法に賛同している小室は、90年代後半に活躍、DVDの総売上枚数100万枚以上を誇る。「AV新法」に関しては、成立に向けて尽力していた立憲民主党の塩村あやか参議院議員に自らアプローチしたという。
「私がAVデビューしてからもう28年。そのなかで気が付いたことは、AVに出演した本当のリスクというのは、10年、20年経たないとわからないということでした。今回のAV新法は未成年者取消権がなくなってしまうことに端を発したことなので、そのこと(未成年者取消権の有無)について話せるAV女優さんはたくさんいるかもしれません。でも、時間が経過してからの現状について伝えられるのは自分しかいないのではないかな、と。それに、どんな業界でも法律に則って労働者を守るように運営されていると思いますが、いままで(この業界に)法律などの整備がなかったこと自体、恐ろしいことだなとも感じています。そういった思いから、Twitterを介して塩村議員に直接連絡を取りました」
そこには小室なりの使命感もあったというが、被害者を生まないためにも自身の経験や見聞きしてきたことを伝えずにはいられなかったのだろう。
「現在出演されている方、これから出演される方の多くは、まだそのリスクに気が付いていないのかもしれませんが、将来、自分の命に代えてでも守りたいものができたときに初めてその重さを痛感するという話を伝えました。現役の方からすると、やりたくてやっていることでも、辞めた後に気持ちや状況がどのように変化するかというのは、辞めてからではないとわからないこと。私自身も、“身バレ”の問題で周囲からの理解を得られず傷ついたことや、周りの気持ちを汲み取れずに大切な人を傷つけてきたこともたくさんありました。アドバイスというほど大それたものではありませんし、余計なお世話だとも思いましたが、いまの私にしか伝えられないことがあると感じたので、陳情させていただくことにしました」
では、小室が言うAV出演の“リスク”とは、一体どのようなものなのだろうか。大きく分けて2つの問題があると説明する。
「まず1つ目は、デジタルタトゥー(※2)の問題。本人でも気付かないうちに出演した映像がインターネットに流れてしまうことがあるため、知らないところで多くの人に見られていたりします。また、データが海外のサーバーに置かれていたりすると、消すことは至難の業です。インターネットが登場する前の女優たちには“忘れられる権利”のようなものがありました。だから出演できたという方々も多いはずです。けれど、ネット社会の現在は、消去されるべき作品がデジタルタトゥーとして残ってしまうのです。私もデジタルタゥーの被害者の一人です。誰からいつ何を言われるかわからない怖さをつねに背負いながら生きて行かなければいけません」
※2 インターネット上などデジタル空間で消すことのできない画像やテキストのこと。
実際、インターネットの出現によって起きた大きな変化によって、小室自身もある影響を受けていると付け加える。
「いろいろなご意見をいただくなかで、『あなたはもう過去の人間なんだから』と言われることがあり、確かにそうだなと思うところはあります。ただ、私が過去の女優であっても作品は現役です。なぜなら、インターネットによって、金額の大小に関わらず、いまでも作品が利益を生んでいるからです。そういう意味で、『作品は現役』だと思いますし、いま出演していないから関わらなくていいという問題ではないとも思っています。ただし私自身は、二次利用料などの権利料は一切受け取っていません。AVAN(※3)が設立されてから契約された女優さんには、二次利用料・三次利用料が支払われているようで、素晴らしい取り組みだと思います。一方、設立以前に契約された作品に対しては適用されていないようで、私自身もAVANに問い合わせましたが、利用料の有無についての通知はいただけておりません」
※3 AVAN:AV女優の人権を守り、AV女優が真に自由な意思決定を以ってAVに出演できる環境を担保する事を目的に2017年10月に設立された非営利の任意団体。2019年6月からは、AV女優に関連する専門事務を担当する、AV人権倫理機構の外局として活動。
「そしてもう1つは、AVに出演していたことを知らせないでパートナーシップを組んだ相手との関係。これは、最近私のところにも相談が増えている案件ですが、アダルトビデオを見ていたら、自分の妻やパートナーが過去に出ていたものをたまたま見てしまい、それがきっかけで口論に…といった内容です」
2つ目に関しては、特にここ1年ほどで相談件数が増えているというが、その背景にはコロナ禍も大きく影響していると分析する。
「実は、コロナ禍になってから、シニア層のAV鑑賞率が上がっていると言われています。理由としては、だんだん娯楽がなくなり、向かった先の1つがアダルトビデオだったというニュースもありました。そんなふうに、AVの鑑賞者数が全体的に増えていくなかで自分のパートナーが過去の作品に出ているものを見つけてしまうことがあるようです。これはあくまでも氷山の一角です。ここ数年性で悩んでいる方が悩みを打ち明けやすい環境になっていることも、相談件数の増加に関係しているように感じています」【2 大ヒット作の出演料はたった30万円、そのうえ被害者となってしまった過去も(2022年12月4日掲載予定)】に続く(text:志村昌美/photo:中村好伸)
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