「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ドキュメンタリー」
●オススメBlue-ray『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』
今年の夏、次の仕事までの時間が空いたので映画館に飛び込んだ。『悲しみの忘れ方』というタイトルに惹かれたからである。結成3周年を迎え、着実に知名度をあげてきた乃木坂46のドキュメンタリー映画とは知っていたが、鑑賞してみると意外や切り口が斬新で、2時間があっという間に過ぎてしまった。
ドキュメンタリー映画とは、実際の人びとや出来事を、虚構を用いずに記録した映画のことである。そもそも映画の創始はドキュメンタリーであり、フランスの映画発明者リュミエール兄弟による『工場の出口』(1895年)が最初の映画となる。この映画は工場の出口にカメラを設置して、従業員らが出てくる様子をワンショットで撮影しただけのものであった。
劇映画が誕生するのは、20世紀初頭の(『ヒューゴの不思議な発明』でも知られる)ジョルジュ・メリエスたちの登場以降となる。
ドキュメンタリーという用語は、本来はフランス語のドキュメンテール(旅行談)から派生したものであり、英国の映像作家で映画評論家ジョン・グリアムソンが命名し、1930年代に一般化したものだ。グリアムソンはニューヨーク・サン紙のレビューで、映像作家ロバート・フラハティの『モアナ』(26年)を取り上げ、初めてこの用語を使用した。ちなみにフラハティは、このレビューのお陰で”ドキュメンタリー映画の父”として知られることとなる。
リュミエール兄弟の映画を第1号と数えれば、映画最古の歴史を持つのがドキュメンタリー映画だ。近年では製作工程は多様化したが、基本工程は変わらない。劇映画は企画から脚本を練り、俳優を決定して具体的な製作に入っていく。しかしドキュメンタリーでは実際の撮影が基本。撮影済みの素材を選定し、さらに編集作業に多大な労力が払われる。
撮影後に脚本が作られ、編集、絵コンテ、再編集、録音という流れが基本プロセス。だが近年では劇映画同様に、脚本などを作った上で撮影に入るケースもあり、『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』もそうした1本である。総じてドキュメンタリー映画は、劇映画には真似できない映画的興奮を与えてくれるジャンルだ。しかし商業的には困難を極め、(ごく一部を除いて)多くの作家が資金難に陥っているのが現状なのである。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は12月11日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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