【ついついママ目線】前編/老人の姿に我が身を重ね、子に苦労をかけない死に方について考えさせられる『ハッピーエンドの選び方』
“死”について前向きに考えさせられる
若い頃は“死”はファンタジーだった。もちろん、頭では人間いつかは死ぬということぐらいわかっている。でも、明日、明後日、と繰り返されている日々の連続の先にそれが待っているという実感はわかないものだった。若い頃といっても、30代でさえ肌感覚では実感が持てなかったように思う。
いつから実感として死を感じられるようになったかというと答えは簡単なことで、親の年老いていく姿を目の当たりにしてからだ。自分が30代の頃は、「そろそろ親も年を取ってきたなぁ」と悠長にゆるやかな下り坂を傍観していたが、ここ数年は日々の連続のすぐ先にはっきりと親の死をいやでも感じてしまう。
でも、そうは言っても親もまだ元気ではある。具体的な死の瞬間を想定することはできない。親を見ているからか、自分自身も生への執着が弱まってきたと同時に若い頃のぼんやりとした死への恐怖心のようなものは薄れてきたが、近い将来必ず目の前にやってくる親の死はいったいどんな形なんだろうと思う。
第71回ヴェネチア国際映画祭で観客賞を受賞したイスラエル映画『ハッピーエンドの選び方』は人生の最期のタイミングを自ら選択する安楽死をテーマに、オフビートな笑いを混じえながら描いたヒューマンドラマだ。妻と老人ホームで余生を送る発明好きの主人公のヨへスケルは、延命治療に苦しむ親友のために本人がボタンを押して苦しまずに死ねる安楽死装置を発明する。
この安楽死装置のことは秘密にしていたはずなのに、ひそかに評判は広がって装置を使用したいとあちこちから依頼が入る。それだけ苦しまずに安らかに最期を迎えたい、あるいは迎えさせてあげたいという需要があるからだ。その思いは万国共通ということか。
本作で描かれているイスラエルはイメージほど宗教的な臭いもなければ、紛争地の物騒な雰囲気もなく、貧しさも感じられない。日本人から見ても、なんら自分たちの感覚と相違なく受け入れられる。同性愛に対しても大らかなお国柄があるようで、その点から見ても死生観が日本人と似ているのかもしれない。
登場人物たちは自ら死を選ぶことに必要以上な罪悪感はなく、純粋な気持ちで死と向かい合っている。そして、自ら最期を選んだということをビデオカメラに収める。それは自分への確認、覚悟を決める手助けにもなるだろうが、やはり“残される者”へ向けた言葉だろう。
逝く者と残される者、残される方はどのように逝かせてあげられるかと気を揉むが、逝く方もどのように残してあげられるか逡巡することだろう。個人的にも自分はどのような最期を迎えるのだろうかとふと考えることが多くなってきた。年老いてきた親の死が日に日にリアリティを増してくる身として、親の姿を自分に重ね合わせ、残される子どもである自分の姿を我が子に重ね合わせてみてしまうのだ。(後編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
・【ついついママ目線】後編/老人の姿に我が身を重ね、子に苦労をかけない死に方について考えさせられる『ハッピーエンドの選び方』
『ハッピーエンドの選び方』は11月28日より全国公開される。
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