前編/天才デザイナーの“影”の部分に迫った『サンローラン』。監督自身による音楽も充実!

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『サンローラン』
(C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
『サンローラン』
(C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

2008年の死去後も業界に大きな影響を与え続けている世界的ファッション・アイコンのひとり、イヴ・サンローランを題材とした伝記映画『サンローラン』が今週末より公開された。同様に彼の生涯を追ったジャリル・レスペール監督による『イヴ・サンローラン』が昨年話題になったばかりだが、今作を監督したのは『メゾン ある娼館の記憶』で2011年のカンヌ国際映画祭パルムドールにノミネートされたベルトラン・ボネロ。

同一人物の伝記映画が立て続けに公開されるという異例の事態には、それなりの理由がある。企画そのものはボネロ監督による今作が先に始動していたのだが、レスペール監督がボネロ監督よりも早く映画化を世に発表し、製作を急ピッチで進行。ボネロ監督よりも先に公開してしまったのだ。「もう一方の製作陣はこちらを追い越すことに重きを置いていた」と語るボネロ監督は、早くからその競争を降りて自分のペースで作品を仕上げることに専念。イヴ・サンローラン財団の公認を得たレスペール監督作が、王道的な伝記映画としてのマナーを踏襲したものに落ち着いた(落ち着かざるを得なかった)ことで、「同じことをする手間が省けた」と喜んだという。自分のスタンスを貫くことで、ボネロ監督はレスペール監督よりも自由に、サンローランの実体に迫るチャンスを得たわけだ。

なので本作は、伝記映画でありながらバランス感覚や客観性から逸脱した、かなり作家性の強い、過激な内容が中心になっている。21歳でクリスチャン・ディオールの後継デザイナーに抜擢され、25歳で自分の名を冠したブランドを設立するという輝かしいキャリアには大して触れず、むしろサンローランが“モードの帝王”になるために払った代償を、彼の代名詞である1971年と1976年の2つのコレクションを軸に描き出している。

サンローランを演じるのは、『ハンニバル・ライジング』で一躍注目を集めたギャスパー・ウリエル。レスペール監督作でサンローランの“光と影”をバランスよく演じたピエール・ニネに対し、ギャスパーはより“影”の方に踏み込んだ、妖しい魅力を醸し出している。また、サンローランの長年のビジネス・パートナーにして恋人でもあったピエール・ベルジェ役にはジェレミー・レニエ、彼を危険に晒すことになる“愛人”のジャック・ド・バシャール役にはルイ・ガレルなど、ヨーロッパの実力派が顔を揃えている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

【映画を聴く】後編/天才デザイナーの“影”の部分に迫った『サンローラン』。監督自身による音楽も充実!

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