【ついついママ目線】後編/アニメキャラに萌えつつも、“中1ギャップ”に敏感に反応『映画 ハイ☆スピード!』
不安を感じ取っても見守るしかない親のもどかしさ
(…前編より続く)水泳に青春をかける男子高校生たちの絆を描いたテレビアニメ『Free!』シリーズ。完全新作として製作された劇場版『映画 ハイ☆スピード! −Free! Starting Days−』では、主人公たちの中学時代を描かれる。入学したての彼らが新しい世界で戸惑う姿に、“中1ギャップ”という言葉を思い起こした。
・【ついついママ目線】前編/アニメキャラに萌えつつも“中1ギャップ”に敏感に反応『映画 ハイ☆スピード!』
もっと大人になってから大変な事態に遭遇することもあるが、いろいろなことを経験してから出会うことはある程度は俯瞰で全体図を把握することもできる。大人は具体的にも把握できるだろうし、観念的にも世界は自分ではどうすることもできないぐらい広くて、自分はちっぽけな存在なんだと捉えることができて気が軽くなることもある。
でも、思春期の子どもにとって世界はとても狭い。SNSでさえ、理屈では国内のみならず世界中とも繋がれるとわかっていても、精神的には閉ざされた世界だ。大人が「世界はとっても広いよ」と説明したところで、子どもにとっては形骸化した無力な言葉にしかならず、救いはないものだ。
小学校はなんだかんだ言っても保護者ありきで活動が行われていくが、中学校は親の手を離れて子どもだけで行われていくことがほとんどだ。親からしてみれば、いま子どもが何をしているのかどんな立場なのかまったく知らずにいることになる。それだけ子どもは学校側から信頼され、責任も重い。学習にしてもそうで、一気に難しくなるにも関わらず、宿題や提出物も自己責任で、出さなかったからと言って怒ってさえもくれなくなる。
そのうえ、小学校を卒業するときは散々、最終学年として下の学年に手本を見せる存在として子どもたちは自分を誇らしく思って小学校の門を出る。しかし、中学校に入ったとたん、下っ端の新入り。それでいて、“大人”として先輩にも先生にも気をつかわなきゃいけない。
こんな状況、子どもが困惑するのは当たり前だ。しかも、思春期ならではの自意識とプライドが邪魔して周りに助けも求められなくなる。そんなとき親はどうするかというと、ただただ見守るしかないのだ。
子どもに寄り添ってきた親なら寄り添ってきた分だけ不安になるだろうが、不安を見せるわけにはいかない。「大丈夫だよ」と声をかけてあげたくなるが、声をかけると「いま、自分は大丈夫じゃない状態なんだ。少なくとも親にはそう見えるんだ」と自覚させて大事なプライドも傷つけてしまうからそんなことはできない。
スクリーンの中にいるアニメキャラのまこちゃんに「大丈夫だよ」と声をかけてあげることはできないが、実際の子どもにも声をかけてあげられない。そんなもどかしい思いを、親は抱えていなきゃいけないのである。(文:入江奈々/ライター)
『映画 ハイ☆スピード! −Free! Starting Days−』は12月5日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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