●イーストウッド、ゴダール、スコセッシらも活躍中
その原動力の源とは?
(…前編より続く)84歳のクリント・イーストウッドは、アクション・スターとして活躍する傍らで70年代から監督業を続けていたが、海外での高評価に対して本国アメリカで一般からも名監督として知られるようになったのはオスカー受賞作『許されざる者』(92年)以降。『ミスティック・リバー』(03年)、『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)などオスカーに輝いた重厚な作品のイメージが先行しがちだが、手がけるジャンルはアクション、ドラマ、実録もの、ミュージカルの映画化まで実に幅広い。監督のみならず音楽も担当。主演も兼ねた『グラン・トリノ』(08年)以降、監督作への出演はなくなったが、映画監督としての精力的な活躍はさらに増し、2014年には『ジャージー・ボーイズ』『アメリカン・スナイパー』と大作2本を監督した。最新作『Sully(原題)』ではトム・ハンクスを主演に迎え、2009年に起きた飛行機事故“ハドソン川の奇跡”を映画化する。
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新しい試みを恐れないのは、ジャン・リュック・ゴダールだ。フランスのヌーヴェルヴァーグの旗手だったゴダールは12月に85歳になった。2013年から3D作品を作り始め、昨年発表した最新作『さらば、愛の言葉よ』も3D撮影。カンヌ国際映画祭審査員賞を、映画祭参加者最年少のグザヴィエ・ドラン(『Mommy/マミー』)と分け合った。
彼らに較べるとまだまだ若いと感じてしまうマーティン・スコセッシは73歳。20年近くも画策していた遠藤周作の小説「沈黙」の映画化が今年ついに製作にこぎつけ、アンドリュー・ガーフィルドを主演に迎えて台湾で撮影を行った。リアム・ニーソンや『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のアダム・ドライヴァー、日本から浅野忠信や窪塚洋介も出演している。さらに、『タクシー・ドライバー』(76年)をはじめ数々の名作を共に作ったロバート・デ・ニーロと久々に組む『The Irishman(原題)』の企画も進行中。アル・パチーノやジョー・ペシの出演が予定されている。
日本には、12月12日に最新作『母と暮らせば』が公開される山田洋次監督がいる。井上ひさしが、広島を舞台に原爆で命を落とした父親と生き残った娘のやりとりを描いた『父と暮らせば』に対して、長崎への原爆投下で亡くなった息子と残された母親という物語で語られるのは、戦禍がまだ残る社会で慎ましく生きる人々の姿と、決して癒えない深い喪失感。優しさの中に包み隠された悲しみの描写に、当時の日本を実際に知る者として次世代に語り継ぐという使命感を感じる。
語るべきことを映画として伝える。その思いは歳を重ねるごとに強くなるものなのだ。一作ごとに無駄が省かれ、純度を増していく彼らの作品がそれを確信させる。(文:冨永由紀/映画ライター)
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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