アンダー30世代ぐらいになると、広末涼子が歌手活動をしていたと聞いてもピンとこない人が多いかもしれない。今や女優として着実にキャリアを重ねて数々の賞に輝いているし、歌手としての活動は2002年までにオリジナル・アルバム2枚とシングル7枚、いくつかの編集盤をリリース後、事実上停止している。なので、本人も世間もあえて歌手時代を振り返ったりすることはないと思うが、竹内まりや、岡本真夜、椎名林檎らを作家陣に迎えたシングルやアルバムはどれも機能的かつ耐久性の高いポップスになっていて、当時の彼女の完全無欠なアイコンぶりもしっかり記録されている。
映画『はなちゃんのみそ汁』では、そんな広末涼子が久しぶりに本気で歌うシーンがいくつか出てきて新鮮さを感じた。同名のベストセラーを映画化した本作で、広末は33歳でこの世を去った安武千恵さんの役を演じているのだが、大学院の声楽科卒業という千恵さんらしく、家族や社会とつながるための手段のひとつとして歌が使われている。
たとえば台湾で歌い継がれる「雨夜花」を三線で家族に弾き語るシーン。実際に千恵さんが三線を習っていたことから加えられたシーンらしいが、広末は阿久根知昭監督が付けた日本語詞をていねいに、言葉のひとつひとつを咀嚼しながら発音している。
それはクライマックスのクラシック・コンサートのシーンで歌われる「満点星」でも同じ。娘に向かって歌いかけるその姿には、自身も3児の母親である彼女の実像を重ねないではいられない。ちなみにこの「満点星」は、広末の姉役として出演もしている一青窈が書き下ろした本作の主題歌。エンドロールでは一青窈の歌うヴァージョンも聴くことができる。
絵本やテレビドラマにもなり、千恵さんのブログとして始まった『はなちゃんのみそ汁』は今や“物語”としてひとり歩きを始めている。テレビドラマ化された際には、感動のエピソードばかりがクローズアップされることや、時に一方的に思える母親としての育児観に対するネガティブな意見も少なからず聞こえてきた。
今回の映画も事実にはないエピソードを含む“半フィクション”として編まれている点は同じだが、その視線はどこまでも前向きで湿っぽさはない。そこに広末涼子の歌声や一青窈の楽曲が重なり、さまざまな角度からの鑑賞に耐え得る家族ドラマに仕上がっている。よけいな先入観を取り払って見てほしいと思う。(文:伊藤隆剛/ライター)
『はなちゃんのみそ汁』は1月9日より全国公開される(12月19日よりテアトル新宿、福岡県内先行公開)。
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