「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ドルビー」
●オススメBlue-ray『時計じかけのオレンジ』
今回からはシネマ音響の話をしていこう。最新のシネマ音響とは何か。それは間違いなく、オブジェクトベースを持った立体音場規格である。その先陣を切ったのがドルビーアトモスで(2012年4月に発表)、シネマ音響史に革命をもたらした立体音場規格であった。
この立体音場規格はいずれ解説するが、まずはドルビーアトモスを開発したドルビーラボラトリーズの話から始めよう。1965年、英国ロンドンに創業者レイ・ドルビーが会社を設立。磁気テープ用のノイズ低減装置を開発したのが、ドルビーの第一歩となる。
開発されたのはプロ用音楽録音方式ドルビーAタイプ・ノイズリダクション。録音で生じる背景ノイズ(サーッというヒス音))を大幅に抑えながら、録音自体には悪影響を与えない画期的な技術であった。ちなみノイズリダクションとは、ノイズを軽減する信号処理のこと。ドルビーが開発したノイズリダクションには、AとSR、BとCとSがあるが、前者は業務用、後者は民生用である。
映画のサウンドトラックには光学式と磁気式があるが、光学式はトーキー誕生からの主流。フィルムの画像横に帯(ギザギザの縞模様)として焼きつけられる音声信号に、光を照射して読み取るものだ。縞の横幅の広ければ大きな音、縞模様の間隔が細かければは高音が再生される。
光学式に遅れて開発された磁気式は、光学式と同じ位置に帯状の磁気帯を設けたもの。いわゆる磁気テープと同じで、録音と再生の原理もテープレコーダーと同じである。音の品質と再現力では磁気式が優位とされたが、耐久性が悪く、連続映写するうちに品質が落ちてしまう。逆に光学トラックは、耐久性に優れていたものの、音の品質は非常に悪かった。
そこで光学トラック用のノイズリダクションが開発され、惚れ込んだスタンリー・キューブリックが『時計じかけのオレンジ』(71年)で初採用する。キューブリックの思惑通り、ドルビーAタイプ・ノイズリダクションは音響技術者の度肝を抜いた。磁気式にも迫る良好な音質が光学式で得られたからだ。そしていよいよドルビーステレオの登場となるが、続きは次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は2月26日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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