『オデッセイ』
(…前編より続く)
それにしても、『アポロ13』や『ゼログラビティ』、『インターステラー』などと被る設定ながら、全編に新鮮な面白さが満ちている。デイモンはスコット監督に、自分は『インターステラー』で宇宙に取り残された男を演じたばかりだと申告したが、スコットは「全然違うから大丈夫」と応えたという。まったくその通りで、科学的正確性を追求しつつ、形而上学的にはならず、ストーリーと歌詞がリンクする70年代のディスコ・ヒットに彩られ、突き抜けたポジティブさとユーモアで快調に進んでいく。
・【週末シネマ】(1)世界中が協力し合う救出劇に感動! 78歳リドリー・スコットの鮮やかさに感服のファンキーなSF
ドナ・サマーやセルマ・ヒューストン、ABBAのヒット曲の中で異彩を放つのは、1月に亡くなったデヴィッド・ボウイの「スターマン」だ。これもまた偶然のなせるわざなのだが、ボウイの声が響き渡る場面には万感胸に迫るものがある。
ワトニーだけではなく、並行して描かれる彼の生存を確認し、救出のために動き出すNASAと地球へ帰還中の「アレス3」のクルーたちの物語も見応えがある。「アレス3」の指揮官にジェシカ・チャステイン、クルーにマイケル・ペーニャやケイト・マーラ、NASA長官にジェフ・ダニエルズ、「アレス33」ミッションのフライトディレクターにショーン・ビーン、広報統括責任者にクリステン・ウィグと芸達者が揃っている。
またオスカーの話になるが、今年の俳優部門候補は白人のみで多様性に欠けるという批判がある。本作はその点、多様性の見本のようだ。NASAの火星探査統括責任者はカプールという名前から察するにインド系(演じているのはアフリカ系のキウェテル・イジョフォー)、救出計画に大きく貢献するのはアフリカ系の若き科学者(ドナルド・グローヴァー)と中国国家航天局(CNSA)。世界中の人々に「手を取り合って、愛の列車を走らせよう」と歌う73年のオージェイズのヒット曲「ラブ・トレイン」が流れる中、彼らが力を合わせていく。
スコットは昨年、「ロサンゼルス・タイムズ」紙のインタビューで作品について「誰も独りぼっちではないということを描いた」と語った。たとえば自然災害が起きたとき、被災者のために世界中から救援の手が差し伸べられるのを見れば、それがわかるとスコットは言う。宇宙の彼方で孤軍奮闘する男と、はるか遠くから彼を救出しようと奔走する人々。サバイバル要素がクローズアップされがちな作品だが、実は救出劇も同じくらい大切なのだ。それぞれの立場で最善を尽くし、帰還(邦題はここに思い入れてつけられたのだろう)という共通の目的に邁進する姿がこうも感動的なのは、予告編で語られた「どの文化圏でも例外なく見られる」「互いに助け合う」という人間の本能を刺激するからだ。
ニヒリズムの極みな『悪の法則』を撮り、『エクソダス:神と王』で旧約聖書を撮り、次にこんなファンキーなSFを撮る。78歳のリドリー・スコットの鮮やかさに感服するばかりだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『オデッセイ』は2月5日より公開される。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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