『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』
2014年アメリカ公開の音楽ドキュメンタリー『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』が、日本でも2週間限定で公開されることになった。そのタイトルを聞いて80年代半ばに流行ったファミコンのゲームソフトを思い出す人がいるかもしれないが、この映画の主役は同じ呼び名で60〜70年代に暗躍したLAのスタジオ・ミュージシャン集団だ。
“暗躍”と書いたのは、当時の彼らが決してスポットを浴びることのない裏方の存在だったから。『永遠のモータウン』や『バックコーラスの歌姫たち』、『トム・ダウド いとしのレイラをミックスした男』など、近年相次いで公開されている裏方を題材とした音楽ドキュメンタリーの中でも真打ちと言える充実の内容で、昨年のブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)の伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』とも密接にリンクしている。彼らが演奏を手がけたヒット曲の数々をバックに、当時語られることのなかったエピソードが当事者たちによって次々と披露されるわけだから、アメリカン・ロック/ポップス好きを自認する人ならまずは一度見なければいけない重要作である。
レッキング・クルー(Wrecking Crew)とは、もともと“解体作業員”や“救難隊”の意。正式なバンド名というわけではなく、何人かのスタジオ・ミュージシャンで構成される不定形の集団を指して使われるようになった俗称だ。ギタリストのトミー・テデスコ、アル・ケーシー、グレン・キャンベル、ベーシストのキャロル・ケイ、ジョー・オズボーン、ドラマーのハル・ブレイン、アール・パーマーらがその中核メンバーで、一時期のアメリカのポピュラー音楽界において膨大なヒット曲のバッキングを担当。参加楽曲の正確な数は本人たちですら把握できていないようだが、たとえばハル・ブレインが関わったシングルは150曲以上がトップ10入り、40曲以上がナンバー1を記録しているという。自分が好きな曲のドラマーを調べてみたら、それがことごとくハル・ブレインだった……というエピソードをインタビューなどでたびたび語っている山下達郎も、彼らの熱烈なファンのひとりだ。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
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