【ついついママ目線】後編/良き妻と良き母は共存できない!? 『クーパー家の晩餐会』を見て家族の視点について考えた
子どもが見たくないのは、親からの憐憫の表情
(…前編より続く)それぞれに問題を抱えたクーパー家の人々がクリスマスイブのディナーに集う様子を描いたホームコメディ『クーパー家の晩餐会』。母親のシャーロットと父親のサムは離婚を決意しているが、最後の一家団欒だからとクリスマスが終わるまでは家族には黙っていることにする。
夫婦喧嘩は子どもに見せちゃいけない、子どもにとってはどちらも大切な宝物同士なのだから傷つけ合うのを見せるのは酷なことだ、とはよく言われること。クーパー家の子どもたちは独立した大人だ。いったいいくつまで親としてのあるべき姿を意識しながら子どもの前で振舞ったほうがいいのだろう? そんな疑問もふと頭をよぎるが、両親がラブラブしていると子どもは嬉しく幸せそうな笑顔を見せる。ああ、やっぱり家族の中心である両親が夫婦愛を感じさせることは、なんだかんだ言っても大きなことなんだろうなと思う。
シャーロットとサムの娘である、現在不倫中のエレノアが一番見たくない母親の顔は、憐れむような残念がっているような慰めているような、自分に向けられる複雑な想いがこめられた何とも言えない表情。親としては娘にやめてと言われても、こんな表情になってしまう場面は幾度となくあることはよくわかる。子どもの幸せを願っているからこそだ。なかでも恋愛において子どもがうまくいっていないときはなおさら。とくに未来のない恋愛に陥った子どもを、親としてはどうしても救い出したいと思うのは当然のところだろう。
子どもが、親の何とも言えない表情を見るとムカつくのは、放っておいてくれない親に対しての腹立ちに加え、親にそんな思いをさせる自分自身に対しても腹立たしいからだ。どんな子どもでも、そして親がどんな親であっても、子どもは親の期待を敏感に感じ取って、切ないほどに親の期待に沿いたいと思うものだ、無意識であっても。親の方もプレッシャーを与えてはいけないとわかってはいるのだけど、わかっているからこそ口に出さず、責める視線を送ることも避けて、でも結局、あの何とも言えない表情が出てしまうのだ。国は違えど、どこの親子もそういうものなのだなぁとつくづく感じる。
親子というものは、距離が近すぎて客観的な視点を忘れてしまいがちなもの。でも、子どもにとってどんな親であるべきかを考えたとき、客観的にとらえることができれば見えてくるものがあるんじゃないだろうか。『クーパー家の晩餐会』は親の立場、子どもの立場、家族のそれぞれの視点を、日常的に軽く優しく気づかせてくれた。(文:入江奈々/ライター)
『クーパー家の晩餐会』は全国公開中。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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