前編/こちらもやっぱり白人偏向? アカデミー作曲賞&主題歌賞ノミネート作をざっとおさらい

#映画を聴く

『キャロル』
(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
『キャロル』
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いよいよ授賞式の日が迫ってきた第88回アカデミー賞。このコラム【映画を聴く】での注目部門は、もちろん作曲賞と主題歌賞だ。今回はその2部門にノミネートされた各5作品の概要や音楽の傾向についておさらいしておきたい。

<作曲賞ノミネート作品>
『キャロル』の受賞に期待!

●『ブリッジ・オブ・スパイ』(トーマス・ニューマン)
監督=スピルバーグ/脚本=コーエン兄弟/主演=トム・ハンクスという鉄壁の布陣による実話をもとにしたドラマ。3者のアカデミー賞ノミネートの合計は、なんと33回(受賞は9回)。今回も作品賞のほか、計6部門にノミネートされている。音楽のトーマス・ニューマンは『ショーシャンクの空に』『ファインディング・ニモ』『007/スカイフォール』などの大作&ヒット作を数々手がける作曲家。父のアルフレッド、叔父のライオネル、兄のデヴィッド、従兄のランディと、映画音楽家を多く輩出するニューマン一族のひとりだ(ランディ・ニューマンはシンガー・ソングライターとしても有名)。本作の音楽はシリアスなストーリーに寄り添ったドラマチックなオーケストラ曲が中心だが、職人による手堅い仕事という感じ。無難に仕上がっているが、記憶に残るフレーズは多くない。

●『キャロル』(カーター・バーウェル)
こちらも計6部門にノミネートされている、トッド・ヘインズ監督『キャロル』。ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラのダブル女優賞受賞が有力視されている本作だが、作曲賞での受賞も個人的には期待している。カーター・バーウェルによる箱庭的な室内楽をベースにしたスコアに、音楽監修のランドール・ボスターが選んだと思われる50年代のスタンダード・ナンバーが数々散りばめられ、映像の美しさをさらに引き立てている。中でもビリー・ホリデイが歌う「Easy Living」が物語の中で果たす役割は大きい。同性愛を扱った内容に話題が持っていかれがちだが、その音楽にも耳を澄ましてみてほしい。

●『ボーダーライン』(ヨハン・ヨハンソン)
ドゥニ・ヴィルヌーグ監督の『ボーダーライン』は、作曲賞ほか3部門にノミネート。アメリカとメキシコの国境で繰り広げられる麻薬戦争を扱ったサスペンス&アクション作品だ。音楽を担当するのはアイスランド出身の作曲家、ヨハン・ヨハンソン。ポスト・クラシカルと呼ばれる静かなムーブメントの中心的存在として、日本にも熱心なファンがいる。ヴィルヌーグ監督とは2013年の『プリズナーズ』に続くタッグで、チェロの寂しげな音色などを生かした彼のスコアに地響きのような重低音が重なるなど独特の音世界を作り出している。『キャロル』と同様に派手さはないものの、映像との絡みが有機的で飽きさせない。

●『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(ジョン・ウィリアムズ)
5部門にノミネートされている『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。作曲賞でのノミネートは、個人的に少し意外だった。映画そのものは文句なく楽しめたが、音楽で印象に残ったのはやはり既発曲を使った箇所が多かったので。とは言え、84歳のジョン・ウィリアムズが本作で『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』や『シンドラーのリスト』に続く3度目の作曲賞受賞となれば、世界中の映画ファンにとって最高のニュースになるに違いない。

●『ヘイトフル・エイト』(エンニオ・モリコーネ)
84歳のジョン・ウィリアムズに続いて、こちらは87歳(!)のエンニオ・モリコーネ。この両巨頭の揃い踏みこそ、今回の作曲賞レースのハイライトということになるだろう。『キャロル』や『ボーダーライン』に頑張ってほしいと思う反面、やはりこの2人の音楽には抗えない吸引力がある。特に本作でのモリコーネのスリリングなスコアは、人の感情を揺さぶる匠の技に満ちあふれている。(後編<主題歌賞>に続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

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