(…前編<作曲賞ノミネート作品>より続く)
<主題歌賞>
レディー・ガガの勇気を評価したい
●『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』
(Earned It/ザ・ウィークエンド)
大ベストセラーの官能小説を原作としたこの映画の主題歌に選ばれたのは、ザ・ウィークエンドの「Earned It」。ザ・ウィークエンドことエイベル・テスファイはエチオピア系カナダ人のR&Bシンガーで、彼の中性的な歌声を軸に、さまざまな音楽性を折衷したサウンドを特徴とする。すでにいくつかのヒットをものにしていたが、この「Earned It」でさらに多くのファンを獲得。ゆったりしたビートに乗る彼の滑らかなヴォーカルは、映画の世界観と強く結びついている。
●『Racing Extinction』
(Manta Ray/J.ラルフ&アントニー・へガティ)
『Racing Extinction』は、和歌山のイルカ漁を題材とした『ザ・コーヴ』の制作チームによる新作ドキュメンタリー。映画音楽家のJ.ラルフとアントニー&ザ・ジョンソンズのアントニー・へガティがタッグを組んだ主題歌「Manta Ray」は、素朴なピアノ伴奏と必要最低限のバッキングがアントニーの声に寄り添うメランコリックな楽曲。映画は未見だが、この曲が主題歌なのだから相当シリアスな作品に違いない。
●『グランドフィナーレ』
(Simple Song #3/スミ・ジョー)
パオロ・ソレンティーノ監督の『グランドフィナーレ』もまだ見ることができていないが、日本公開時にはぜひこの【映画を聴く】で取り上げたい作品。各国主要映画賞44部門ノミネート(13部門受賞)の本作は、引退した指揮者と引退間近の映画監督という2人の老人を主人公にしている。デヴィッド・ラングによるスコアと彼の手がけた主題歌「Simple Song #3」、それに劇中で使用されているというオペラの名曲群といった前情報を知るだけでも期待が高まる作品だ。
●『ハンティング・グラウンド』
(Til It Happens to You/レディー・ガガ)
『ハンティング・グラウンド』は、現在アメリカの多くの大学で問題になっているレイプ事件を取り扱ったドキュメンタリー。この映画のテーマに賛同したレディー・ガガがダイアン・ウォレンと書き下ろした「Til It Happens to You」は、レイプ被害者の心情を描いた歌詞と、衝撃的なMVがすでに大きな話題になっている。自身もその被害者であることを告白しているガガだけに、ここでの勇気ある取組みは高く評価されるのではないだろうか。
●『007/スペクター』
(Writing’s on the Wall/サム・スミス)
『007/スペクター』の主題歌は、英国のサム・スミスが歌う「Writing’s on the Wall」。往年のジョン・バリーを思い出させるような煌びやかなオーケストレーションと、スミスのファルセット・ヴォイスが印象的な楽曲だ。2013年の同賞には、『007/スカイフォール』のための書き下ろし曲「skyfall」を歌った英国のシンガー、アデルが選ばれている。彼女へのリスペクトを公言しているスミスだけに、『007』つながりで受賞を狙いたいところだ。
俳優部門の候補者が全員白人だったことから、近頃「Oscar So White(オスカーは真っ白)」という言葉があちこちで使われているようだが、それは作曲賞でも同じ。主題歌賞には韓国のオペラ歌手であるスミ・ジョーや、エチオペア系カナダ人のザ・ウィークエンドが含まれているとは言え、十分に多様性の感じられるノミネート結果というわけではない。そのいっぽうで、一連の騒動を白人に対する逆差別だとする見方もある。いずれにしても、まずは今年のノミネート/受賞を経て、それが来年にどうつながるかをしっかり見届けたいところだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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