日本映画はやりがい搾取の上に成り立っているのか?「問題の多くは、実はお金によって解決できる」という声も

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『復讐は私にまかせて』
日本人のベテランカメラマン芦澤明子が参加したインドネシア映画『復讐は私にまかせて』の撮影現場。スタッフが若く、権限を持つ女性が多いことが印象的だったという

どれだけ制作費を削るかを重視する日本

今後、日本映画界を語るうえで、一つの転機を迎えた年として挙げられるであろう2022年。海外から数年遅れでやってきたMeToo運動は、業界全体に大きな衝撃を与えた。そんななか、ムビコレでは「映画情報サイトとしていまできることは何か」を考え、「日本映画界の問題点を探る」という連載を7月からスタート。映画界のみならず、エンタメ業界が抱えるさまざまな問題について、各界で活躍する方々に話を聞いて回ることにした。

記念すべき第一回目は、日本初のインティマシー・コーディネーターとして注目されている浅田智穂。インティマシー・コーディネーターとは、性的なことに関するシーンにおいて俳優と制作陣の間で調整する役割を担っており、MeToo運動をきっかけに2017年からアメリカで採用されたのが始まりとされている。

性的シーンで震える生身の俳優たち、守るための取り組みは始まったばかり

現在、日本では映画界のみならず演劇界でもMeToo運動が次々と巻き起こっているが、いままでがいかに声を上げられない状況だったのかを感じずにはいられない。特にハラスメントの問題は非常に根深いだけに、まずは俳優たちの安全を守るためにも、インティマシー・コーディネーターのさらなる普及は急務と言えるだろう。

インティマシー・コーディネーター

インティマシー・コーディネーターの浅田智穂

しかし、ここで立ちはだかるのが予算の問題。日本では低予算の作品が多いこともあり、入れたくても入れられないのが現状だ。予算不足はかねてより言われ続けていることだが、そのほかの問題も引き起こしてしまう原因にもなっている。なかでも深刻なのは、「長時間労働」「低賃金」「休みがない」といった労働環境の悪さ。華やかに見え、夢を抱いて働き始める若者たちも多い一方、多くの人たちが我慢を強いられているため、“やりがい搾取”と言って過言ではないだろう。その状況を長年見てきた女性カメラマンの芦澤明子は、人手不足や若い世代が育たないことに対する危機感を抱いていると明かしていた。

「振り返ると誰もいない」人手不足の現状 余裕のない現場から次の才能は出てこない

昨年の11月には、塩村あやか参議院議員が元放送作家という観点からエンタメ業界の問題点を指摘。どれだけ制作費を削るかを重視する日本と、潤沢な予算をもつ韓国との違いに触れ、国策の違いを感じるとも。また「エンタメ業界はフリーランスの方が多いので、そこを改善すべき」とも語っていた。

フリーランスの多いエンタメ業界、多様性ある働き方推進するなら脆弱な社会保障を見直す必要

現役時代には気づかなかったAV出演のリスク、元クイーン女優が今だから言えること

塩村あやか

塩村あやか参議院議員

23年の第一弾として来週掲載予定の記事では、いまや国際的な監督となった深田晃司監督に取材を行っているが、ここでもお金の話は重要なトピックの一つとなった。

深田監督によると、「映画業界の労働環境が抱える問題の多くは、実はお金によって解決できる」という。予算が増えれば、撮影時間に余裕が生まれ、過酷な長時間労働を少しでも解消することが可能になると語っている。

さらに深田監督は、「クリエイティブを支える製作環境や労働問題について考えるとき、精神論のみではなくお金の話をするのはとても重要なこと。その負担を個々人や企業のみに押し付けず、業界全体の問題と捉えて議論すべき」とも訴えている。そのためにも、改善が急がれるのは、現在の日本の助成金制度。海外の助成金に比べて、映画づくりのリアルに即していない内容になっていると苦言を呈する。詳しくは、ぜひ1月21日から連続掲載される深田監督のインタビューを読んでいただきたい。

そのほかに登場してもらったのは、海外を舞台に活躍する“伝説の女性映画プロデューサー”吉崎道代。番外編として日本初のトランスジェンダー区長を目指して新宿区長選に立候補したよだかれん。AV新法の施行に協力、AV女優として一時代を築いた小室友里。それぞれ立場は異なるものの、自身の実体験を踏まえているだけに、どの話にも説得力があり、興味深い内容ばかりだった。

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世界的に見て、映画(映像)業界を取り巻く視点は大きく変わりつつある。韓国を始め、勃興するアジアの映像制作現場と互角に戦うためには、日本も大きく変わる必要がある。そのために何が必要なのか? 2023年も様々な取材を通じ、日本映画界が抱える問題に迫り続けていきたいと考えている。(文:志村昌美/ライター)