角川映画40周年記念作品として公開中の『セーラー服と機関銃 -卒業-』。ちょうど35年前の1981年に薬師丸ひろ子主演で映画化され、翌1982年には原田知世主演でテレビドラマに。その後、2006年には長澤まさみの主演で再度テレビドラマ化されているので、今回の橋本環奈は4代目の星泉、ということになる。
特に相米慎二監督による薬師丸版は数ある角川映画の中でも圧倒的な知名度と根強いファンを持つ名作なので、その続編となる本作(原作は赤川次郎『セーラー服と機関銃・その後–卒業–』)にも公開前から大きな期待が寄せられていた。前田弘二監督は薬師丸版へのオマージュを散りばめつつ、物語を2016年という時代に相応しくアップデート。女優としては未知数だった橋本環奈の体当たりの演技も相まって、とても後味のいい青春映画になっている。
『セーラー服と機関銃』と言えば、誰がヒロインを演じるのか、「カ・イ・カ・ン」のセリフはあるのか、などと同じくらい気になるのが主題歌だ。原田知世のテレビドラマ版のみ「悲しいくらいほんとの話」という別の楽曲が使用されたが、薬師丸版、長澤版、そして今回の橋本版にはいずれもヒロイン本人が歌う同名曲「セーラー服と機関銃」が使われている。
作詞=来生えつこ/作曲=来生たかおによるこの楽曲、薬師丸のヴァージョンがあまりにも有名なので、彼女がオリジナル歌手だと思われがちだが、実際には作曲者である来生たかお自身が「夢の途中」のタイトルで少しだけ先にリリースしている(タイトルだけではなく、歌詞やアレンジも若干異なる)。当時は音楽番組などでも共演しており、ともにオリコン10位以内に入るヒットを記録している。
薬師丸は歌手デビューとなるこの曲以降、「探偵物語」「メイン・テーマ」「Woman “Wの悲劇”より」と3作続けて自身が主演する角川映画の主題歌を歌ってヒットさせているが、1990年を最後にコンサート活動を休止。2013年に行なわれた23年ぶりのソロ・コンサートでは当時と同じキーでこの曲を歌い上げ、変わらない歌声がファンを驚かせた。
長澤と橋本はいずれも薬師丸ヴァージョンをカヴァーしているのだが、アレンジはそれぞれ微妙に違う。長澤ヴァージョンは、イントロのフレーズこそオリジナルの雰囲気を残しているものの、リズム・トラックはアッパーでテンション高め。長澤はこの曲を星泉の名義でシングル・リリースして以来、目立った歌手活動はしていないが、ここで聴ける歌声は薬師丸に近いものがあり、実はけっこう歌えるのではないかと思わせる。
橋本環奈はアイドルグループ、Rev. from DVLのメンバーとして、ライヴだけでなくシングルもコンスタントにリリースしているが、今回の「セーラー服と機関銃」がソロ・デビュー曲となる。長澤ヴァージョンに比べると比較的おとなしいアレンジで、彼女の歌声はクールかつ淡々としている。17歳という不安定な部分も残しつつ弱小ヤクザの組長でもある星泉というキャラクターとのギャップはない。アイドルのソロ・デビュー曲としては地味かもしれないが、この名曲が35年を経て本当のスタンダードになったことが分かる仕上がりだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『セーラー服と機関銃 -卒業-』は3月5日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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