『マジカル・ガール』
オープニングで流れる曲がアイドル時代の長山洋子のデビュー曲「春はSA・RA・SA・RA」、エンディング・テーマはピンク・マルティーニによる美輪明宏のカヴァー「黒蜥蜴の唄」。新人監督のカルロス・ベルムトによるスペイン映画『マジカル・ガール』は、そんな意表を突く演出と先の読めないストーリー展開、洗練された映像美で見る者をぐいぐい引き寄せる最新鋭のフィルム・ノワールだ。
誰かへの愛のために行動を起こしたはずなのに、それが思いもよらぬ方向へ独り歩きし、本人たちにもコントロールできないほど大きな出来事に膨れ上がっていく。複雑に絡み合う人間関係や時系列をすっきり整然と分かりやすく見せてしまう構成力がまず素晴らしく、ペドロ・アルモドバル監督ほか世界中から賛辞の声が多く寄せられているのも納得できる。
「春はSA・RA・SA・RA」や「黒蜥蜴の唄」といった楽曲が使われているのは、ベルムト監督が大の日本フリークだから。日本の文化全般に造詣が深く、好きな映画監督は黒澤や小津のほか新藤兼人、寺山修司、大島渚、今村昌平、勅使河原宏など。現代でも園子温、岩井俊二、塚本晋也らを敬愛しているという。こういった並びを見るだけで、最近までのかなり広範な日本映画をチェックしているようだ。
そのほか「聖闘士星矢」、手塚治虫、水木しげる、丸尾末広、浦沢直樹らのコミックも大好物で、「ドラゴンボール」にいたっては愛するあまりに本家を再解釈した「Comic Dragon」というコミックを自分で出版している(彼はもともとイラストレーターでもある)。好きな日本人ミュージシャンは浅川マキだというから、そのマニアぶりは徹底している。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
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