『グランドフィナーレ』
パオロ・ソレンティーノ監督
名優たちが、その新作に出演したがる映画監督。現在そんな監督の1人として名が挙がるのは、イタリアのパオロ・ソレンティーノだろう。今年46歳で、最新作の『グランドフィナーレ』は長編6作目だが、前作『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(13年)ですでにオスカー受賞(外国語映画賞)を果たしている。
21世紀の『甘い生活』とも言われた前作に続いて、『グランド・フィナーレ』でも主人公は老境を迎えた芸術家だ。スイスの高級リゾートホテルで優雅に過ごす引退した音楽家と、親友で今なお現役の映画監督。非現実的な空間と設定にも関わらず、老いと若さ(原題は『Youth』)をキーワードに人生の普遍を描き出す。
英国王室から出演依頼が舞い込むも頑にカムバックを拒否する作曲家で指揮者の音楽家をマイケル・ケインが、若いスタッフを集めて新作の構想を練る映画監督をハーヴェイ・カイテルが演じる。この2人に加えてレイチェル・ワイズ、ホテルに宿泊する厭世的な映画スターに演技派の若手のポール・ダノ、そしてあのジェーン・フォンダも登場する。ただ賑やかなだけではなく、この人とこの人の共演を見てみたいと思わせるキャスティングを実現させるだけでも、ソレンティーノという名前の希求力がうかがえる。
ソレンティーノの名前が世界的に知られるようになったのは、戦後イタリアを代表する政治家、ジュリオ・アンドレオッティ元首相の晩年を描いた『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』。同作でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したが、この年の審査員長を務めていたショーン・ペンと意気投合し、次作『きっと ここが帰る場所』(11年)はペンを主演に迎えて、初めて英語作品に挑戦した。シリアスな物語なのに、どこか抜けるような感覚、大らかさがあり、ともすれば深刻な芝居だけを求められがちなペンの新たな面を引き出し、新鮮な印象を与えた。
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』もそうだったが、ソレンティーノが描く人物たちは常に揺れている。歳を重ねた分だけ人間は賢くもなり、愚かにもなり、大胆にも臆病にもなる。肉体の衰えと精神の成熟が引き起こすアンバランス、それが老いという境地なのかもと思わされる。ソレンティーノが持つ客観性は、40代半ばという年齢だからこそのものかもしれない。
彼の次なる作品は、同世代のジュード・ロウがローマ教皇を演じるテレビシリーズ『The Young Pope(原題)』。不可侵の聖域バチカン市国に改革をもたらそうとするアメリカ人教皇の物語だという。ユニークな設定から誰もが共感する真実を抽出する、彼の作品を今後も長く楽しみにしたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『グランドフィナーレ』は4月16日より公開される。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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