最初にスクリーンに登場した時から、強く惹きつける光を放つ少女だった。2009年の『ガマの油』でヒロインを演じて映画デビューした二階堂ふみは当時15歳。中学生なのに、瑛太の恋人役を演じても無理に見えない。ませていたのではない。大人っぽい子どもにも、子どもっぽい大人にも見えるし、何より年齢という物差し不要の自由な個としての面白さが強烈だった。
その後に出演した映画、ドラマでもその輝きは鈍ることなく増していき、園子温監督の『ヒミズ』でヴェネチア国際映画祭の新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞、一気に脚光を浴びた後も順調にキャリアを重ねてきた彼女の最新公開作が『蜜のあわれ』だ。
室生犀星の短編小説を石井岳龍が監督した『蜜のあわれ』は、大杉漣が演じる老作家と、少女の姿に変身し、赤子と名乗る金魚の物語。二階堂は赤子を演じている。整理整頓された家具調度品の美しい和風建築の書斎で文机に向かう着物姿の老作家に、赤いふわふわした服を着てまとわりつく赤子。老境にさしかかった男を翻弄する小悪魔のようでいて、すっとぼけた先生に振り回されもしたり、ありがちな老人と美少女のクリシェを外して生と性の儚さや喜びを描く原作を、見事に映画という形に昇華した作品だが、そこには幻想とリアルのバランスをかぎ取って表現できる彼女のセンスが大きく貢献している。
自分を「あたい」と呼び、ときどき心許なくなる口調で「〜してごらんあそばせ」などと言ったり、喜怒哀楽もあけっぴろげな赤子はミステリアスではないのだが、まさに“あはれ”を誘うのだ。ひらひらときれいな尾ひれもあるけれど、爪もある金魚。こんなキャラクターを成立させてしまうのが二階堂なのだ。彼女自身が高校生の時に原作小説を読み、演じたいと熱望していた役柄だけに、今回は特に役との親和度が高かったようだ。
そして二階堂ふみは、今この時にしか演じられない役があるということをよく知っているのではないだろうか。女優に年齢は関係ない。30歳になった彼女にも赤子はおそらく演じられるだろう。だが、21歳の今だからこその感情、肉体を必要とする作品があり、それが何であるか、どうそのチャンスをつかむかを彼女は理解し、つかみ取っている。映画、文学、音楽などあらゆる芸術の過去の名作にふれて吸収していく貪欲な探究心を隠さないのも魅力だ。そして、そんな彼女ならわかるはず、できるはず、と次々と寄せられる期待を裏切らない。
昨今は特に、1つ当たりが出ると、その後は似たようなテーマの作品やキャラクターのオファーが続くことが多いはずだが、彼女は作家性の強いアート作のみならずエンターテインメント大作、ラブコメまで幅広く、また主演にこだわらずに脇にも回る。今やバラエティー番組のレギュラーもこなす柔軟な姿勢も頼もしい。ますます人気が広がり、興味本位の報道も増えてきた。だが、そういうノイズが邪魔にならない。どんなときも必ず、お芝居という素敵な嘘を見せてくれる本物の女優。常に彼女の“今”と“その次”が楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『蜜のあわれ』は4月1日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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