【週末シネマ】凄まじくエモーショナル、ヴァイキング映画の快作に引き込まれる
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復讐に燃える王子の旅路を描く『ノースマン 導かれし復讐者』
シェイクスピアのハムレットは北欧の伝説をもとにした物語だが、その伝説に忠実にアイスランドの英雄物語やスカンジナビア神話の要素を加え、凄絶なアクション満載のヴァイキングの復讐譚として映画化したのが『ノースマン 導かれし復讐者』だ。
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主人公は悩める中世のデンマーク王子ではなく、裏切りによって殺された父親の復讐に燃える9世紀北欧の王子アムレート。『ターザン:REBORN』(16年)や『ゴジラvsコング』(21年)のスウェーデン出身のアレクサンダー・スカルスガルドが製作・主演し、『ウィッチ』(15年)や『ライトハウス』(19年)で異様な迫力に満ちた世界を描いてきたロバート・エガースが監督を務める。
息子アムレートの目の前で弟フィヨルニルに殺害され、無念の最期を遂げるオーヴァンディル王をイーサン・ホーク、夫を殺したフィヨルニルの妻となるグートルン王妃をニコール・キッドマン、王に仕える道化を『ライトハウス』のウィレム・デフォーが演じる。
王である父を殺され、10歳にして命を狙われる身となって故郷の島から脱出したアムレートは数年後、ヨーロッパ各地で略奪を繰り返すヴァイキング戦士の一員となっていた。そんなある日、彼は預言者から自らの運命を示唆され、叔父への復讐の旅に出る。旅の途中、奴隷船上で知り合い、彼の手助けをするオルガを『ウィッチ』に主演したアニャ・テイラー=ジョイが演じる。
構想10年以上、スカルスガルドのキャリアの集大成に
幼少期からヴァイキングの物語に親しんで育ったスカルスガルドは10年以上前からヴァイキング映画の構想を練っていたという。アメリカ人のエガースはヴァイキング文化に詳しくなかったが、これまで手がけた映画はどれも徹底した時代考証で知られている。本作でもスカルスガルドとともに、専門家の力も借りた綿密な考証で服、住居、武具や船などの再現を試み、風習や宗教観など、生活や文化についても「史上最も正確なヴァイキング映画」と評される世界が構築された。
筋肉隆々の男たちが剣や斧を振り回す迫力のアクションと、トリップするような神秘的な精神世界の共存はエガース作品らしい独特な美しさがある。スカルスガルドは『バトルシップ』(12年)やTVシリーズ『トゥルーブラッド』(12~14年)といったエンターテインメントからラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』(11年)のようなアート系作品まで幅広く活躍してきたが、本作はこれまでのキャリアの集大成と言えそうだ。
エガースとの共同脚本には『LAMB /ラム』のショーンが加わり、彼がかつて共同脚本を務めた『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)に主演したビョークは本作にも重要な役で出演している。
セリフや立ち居振舞いからは現代的な雰囲気を一切省き、俳優たちの非常にドラマティックな演技は日本の歌舞伎にも似た感覚で、観客を物語の世界に浸らせる。
過酷な境遇によって作られたのではなくトレーニングによって作った肉体、きれいにメイクアップした顔、という映画の嘘はもちろんあるが、その嘘から出たまことで惹きつける。復讐譚ではあるが、では主人公が仇とする相手は本当に悪なのか? 正義というものが1つに決めきれないことにも触れながら、凄まじくエモーショナルで生命力あふれる怪作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ノースマン 導かれし復讐者』は、2023年1月20日より全国公開中。
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