【映画を聴く】『LISTEN リッスン』前編
耳でなくても音楽を“聴く”ことはできるか?
現在公開中の『LISTEN リッスン』は、“聾(ろう)者の音楽”をテーマとしたドキュメンタリー映画。音楽をテーマとしながら58分の上映時間、全てが無音という、これまでにないタイプの音楽ドキュメンタリーになっている。
従来の“聴覚障害者向け”と呼ばれる音楽は、たとえば1995年のアメリカ映画『陽のあたる教室』などで見られたように光の点滅や手話、あるいは振動を使って伝達するのが一般的だ。言ってみれば、聴覚を持つ者が持たない者に歩み寄って“聴かせる”もの。本作はその逆で、聴覚を持たない者が持つ者に、自己の内面で鳴っている音楽を身体的なパフォーマンスによって伝えることをテーマにしている。
今回、この映画の宣伝を担当する「聾の鳥プロダクション」から上映に先立ってサンプルDVDをお借りしたのだが、その際「聾者の感覚をよりリアルに感じてもらえるように」という理由から簡易の耳栓が同封されていた。すすめに従って耳栓をねじ込み、登場する人たちの全身を使ったパフォーマンスを見てみると、聴覚を持つ者がいかに耳だけで音楽を聴くことに依存しているかに気づかされるとともに、なぜ本作に“HEAR(聞く)”ではなく“LISTEN(聴く)”というタイトルがつけられたかもはっきり理解することができた。
この映画の制作は、会社に勤めながら映画を撮っていた牧原依里氏と舞踏家の雫境(DAKEI)氏という、ともに聾である2人の出会いが起点となっている。“聴覚的音楽”を“視覚的音楽”に翻訳、映像化するという牧原氏の思いに共感した雫境氏が、牧原氏からの協力依頼を受け入れる形でプロジェクトがスタート。共同監督として“聾者の音楽”を探求することになった。
聾の親を持ち、自身も小学2年生まで聾学校に通った牧原監督は1986年生まれ。それまで先述のような“聴覚障害者向け音楽”に心を動かされたことがなく、むしろステージでの演奏者や指揮者の身振り手振り、ダンスといった視覚要素に音楽的なものを感じていたという。と同時に、手話で音楽を表現するという聾文化から生まれた表現手法=手話詩に大きな関心を寄せるように。
いっぽうの雫境監督は幼少期から補聴器をつけることなく、視覚と振動を頼りに育ってきたという人物で、東京藝術大学大学院在学中に舞踏と出会うことで「耳が不自由でも音楽ができるのではないか」という思いを抱くようになったという。国内だけでなく、世界各国で公演を行なっているほか、以前当コラムでも紹介したアニエスベー監督作品『わたしの名前は……』といった映画作品にも出演するなど幅広く活動している。(後編「無音でいかに音楽を“聴かせる”か?」に続く…)
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