【映画を聴く】『海よりもまだ深く』前編
これまでの是枝作品のトーンを
いい意味で踏襲した音楽
『海街diary』から1年。是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』が早くも公開される。15年前に一度文学賞を獲ったきり鳴かず飛ばずで、現在は小説のための取材と言い訳しながら興信所に勤める作家崩れの中年男、良多に阿部寛。そんな良多に愛想を尽かして息子を連れて離婚した元妻の響子に真木よう子。ダメ息子に呆れながらも無償の愛情を注ぎ続ける良多の母親、淑子に樹木希林。「こんなはずじゃなかった」とぼやいて過ぎていく元家族たちの愛すべき日常を、是枝作品ではおなじみの面々がていねいに演じる。また、監督自身が9歳から28歳まで実際に暮らしたという東京・清瀬市の団地というロケーションも、物語に込められた思いを浮き彫りにするために欠かせない要素となっている。
新作を発表するたび、その音楽のよさも話題になることが多い是枝作品だが、本作もまた素朴ながら味わい深い音楽に彩られている。今回音楽を手がけているのはシンガー・ソングライターの永積タカシによるソロユニット、ハナレグミ。映画との関わりでは、彼の在籍したSUPER BUTTER DOGの代表曲「サヨナラCOLOR」にインスパイアされた竹中直人が自ら監督として映像化した同名映画がよく知られている(同曲を主題歌にも起用)。是枝監督がプロデュースした砂田麻美監督の2011年作品『エンディングノート』にもサウンドトラックと主題歌を提供しており、本作では仮編集の段階から彼の音楽を使う前提で作業が進められたという。
これまで是枝作品では、『誰も知らない』『歩いても 歩いても』、テレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』の3作をGONTITI、『奇跡』をくるり、『海街diary』を菅野よう子といったポップス分野で活躍する面々を起用するいっぽう、『そして父になる』ではエンディングにグレン・グールドのピアノ曲を使うなど人選/選曲はバラエティ豊かだが、そのサウンドはアコースティックで静謐な風合いを基調とする点で共通したトーンを持っている。
本作でのハナレグミの音楽も、その規定路線をいい意味で踏襲するもの。是枝作品との相性は抜群だ。アコースティック・ギターを中心としたアンサンブルに口笛などを交え、洗いざらしの真っ白なコットンシャツのように風通しのいいサウンドを聴かせる。劇伴でありながらハナレグミの従来の作品にも通じるところがあり、ハナレグミの“歌のない新曲”としてファンにも楽しめる仕上がりとなっている。(後編「“なりたかった大人”になれなかった人への愛情」に続く…)
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