(…前編「ほとんど本人!」より続く)
・【映画を聴く】前編/単なる“そっくりさん”じゃない! 大学教授兼建築家がプレスリー映画の主役に!?
【映画を聴く】『エルヴィス、我が心の歌』後編
ハーヴェイ・カイテル『グレイスランド』と
対照を成す作品
エルヴィス・プレスリーと映画の関わりは、今さら言うまでもなく深い。『ブルー・ハワイ』や『ラスベガス万才』など数多くの本人主演作品があるだけでなく、『永遠に美しく…』や『フォレスト・ガンプ/一期一会』には“歴史上の人物”として登場する。彼の楽曲が全編に使われた『ハネムーン・イン・べガス』といった作品もあるし、ミック・ジャガーの製作で伝記映画が進行中というニュースも数年前に報じられた。実名は出なくてもトレードマークであるリーゼント風の髪型や太いモミアゲ、フリンジ付きのド派手なジャンプスーツなどがパロディ的、アイコン的に扱われるケースも多く、そういったものまで含めれば“エルヴィス映画”はかなりの数に膨れ上がりそうだ。
その中にあって本作『エルヴィス、我が心の歌』は、偉大なポップ・スターであるエルヴィス・プレスリーの存在を深く掘り下げた作品として異彩を放っているが、熱心なファンの中には1998年の映画『グレイスランド』に通じる世界観を感じ取った人も少なくないだろう。
本作と『グレイスランド』は、「エルヴィス・プレスリーを名乗る男が、メンフィスにある彼の邸宅“グレイスランド”を目指す」という大筋において、ほとんど同じと言っていい。ただ、主人公がどんな経緯でエルヴィスを名乗り、どんな心境で“グレイスランド”へ向かうかには大きな違いがあり、そこで迎える結末もまた対照的だ。
『グレイスランド』でハーヴェイ・カイテル演じる“エルヴィス”がどこかミステリアスで生活感がなく、精霊のような雰囲気を醸し出しているのに対し、本作でジョン・マキナニー演じる“エルヴィス”はつねに煩わしい実生活に追われ、自分を“エルヴィスの生まれ変わり”と思い込むことで何とか精神の均衡を保っている。そんな両者にとって“グレイスランド”が終着点であることに違いはないのだが、ファンタジー的な展開で大きな感動へつなぐ『グレイスランド』に比べると、本作のラストはいささかシリアスで重い。
同じようなストーリーラインを持ちながら、後味は正反対の『グレイスランド』と『エルヴィス、我が心の歌』。どちらも本人が出てくるわけではないし、作品として関連性があるわけでもないが、結果的にエルヴィス・プレスリーという巨星の光と影を映し出しているという意味で、両作は合せ鏡のような関係にある。来年で没後40年というこのタイミングで、彼の遺したものの大きさを、若い世代の映画ファン&音楽ファンにも“発見”してほしいと思う。(文:伊藤隆剛/ライター)
『エルヴィス、我が心の歌』は5月28日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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