(…中編「原作の良さを損なわず、厚みを持たせることに成功」より続く)
・【元ネタ比較】前編/TVドラマとは全然違う! 視聴者への信頼を実感したNetflixドラマ『火花』
・【元ネタ比較】中編/TVドラマとは全然違う! 視聴者への信頼を実感したNetflixドラマ『火花』
【元ネタ比較】『火花』後編
原作本と映像作品を見比べて紹介する【元ネタ比較】。今回は、話題のネットドラマ『火花』を取り上げてみました。
●Netflixのオリジナルドラマの可能性に期待!
芥川賞を受賞した又吉直樹原作の話題作『火花』がNetflixのオリジナルドラマとして映像化された。肝心のメインキャラは、主人公の徳永に『悪の教典』の若手人気俳優・林遣都、先輩芸人の神谷には『パッチギ!』の演技派俳優・波岡一喜が扮している。
華があるが、華だけを求めずに映画で実力を発揮している俳優をキャスティングしているのもいい。この2人は実際にも先輩・後輩としての交流があるらしく、その関係性が役にリアリティを与えている。キャスティングを聞いたときは「林遣都が漫才師役だぁ? 漫才師なめんなよ」と思ったが、見ているとどんどんとなじんでいき、「ナイーブでコミュ障っぽくて、ネタを考えるほうのボケ役にこんな漫才師、いるいる!」と思えてきた。波岡も、はみ出し者だがカリスマ性がある難しい役どころの神谷を複雑な魅力を放って巧演。神谷のモデルと言われている(本人は否定)又吉の先輩である烏龍パークの橋本武志と浪岡が、顔つきも雰囲気も似ているのもぐっとくる。
また、徳永の相方は井下好井の好井まさお、神谷の相方はとろサーモンの村田秀亮が演じている。俳優はもちろん、知名度優先の人気芸人ではなく、どちらも知名度はそこそこでも実力のある漫才師をキャスティングしていることには謝意さえ覚えた。ドラマにおける演技も申し分ないが、この作品の陰の立役者はこの2人、とくに好井だと言ってもいいんじゃないかとすら思う。なぜなら、本作では「漫才しました風のてい」でお茶を濁さず、要所要所で舞台やネタ合わせの漫才シーンをガッツリ見せるのだ。このシーンに漫才師魂を感じさせるガチ感がないと作品そのものが成立しないが、鳥肌が立つほどそれが感じられるのだ。これは好井による功績が大きいだろう。林は好井と繰り返し練習を重ねたのだそうだ。最終話では2人とも漫才師コンビの顔になっていて、原作を読んだときと同じく涙が溢れた。林遣都よ、「漫才師なめんなよ」なんて思ってごめんなさい、と反省した。
さらに予想を覆して良かったのはラストのエピソードだ。原作を読んだときも突飛な出来事に少したじろいだほどだから、映像で具現化するともっとひいてしまうのではないかと危惧していた。しかし、想像するよりも、映像でそのまま見せられたほうがすんなり入ってきて、俳優の演技もあいまってこじらせた芸人の哀愁を感じ取ることができた。そして、「神谷さんの頭上には泰然と三日月がある。その美しさは平凡な奇跡だ。」から始まる原作の終盤の一節も、徳永が神谷から与えられる課題である伝記として引用され、最後に又吉の文章の美しさに浸らせてくれるのも粋な計らいだ。
最後に言及しておきたいのはNetflixのオリジナルドラマの可能性を大いに感じたことだ。評判になっていたケヴィン・スペイシー主演の『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などのアメリカのNetflixのオリジナルドラマはなるほど面白かったが、日本のNetflixのオリジナルドラマは見たことがなく、そのクオリティを訝しんでいた。しかし、今回『火花』を見て、視聴者をバカにせずに信頼している質の高さをひしひしと感じた。
Netflixでは従来のTVドラマなどとは違って、視聴料で資金を得て、番組スポンサーの顔色を伺うことなく、視聴者の要望にダイレクトに応えて作品制作することができるのだろう。しかも、CMで中断されることもなければ、CMありきで盛り上がりを用意しなくてはいけないこともなく、尺の制限も細かく設けられていないとなれば、下手な足かせなく作り手がのびのびと創作できる。そのため自ずと作品として純粋なクオリティが上がるというものだろう。今後のNetflixのオリジナルドラマにも期待したい。(文:入江奈々/ライター)
『火花』はNetflixで配信中。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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