【映画を聴く】『クリーピー 偽りの隣人』前編
ホラー映画の達人・黒沢清監督の原点回帰的作品
『クリーピー 偽りの隣人』は、前川裕による2012年刊行のミステリー小説を黒沢清監督が映像化したもの。“ぞっとする、身の毛がよだつ”という意味を持つ「クリーピー(creepy)」のタイトル通り、全編にわたって息の詰まるような緊張感が持続する。
前作『岸辺の旅』ではメロドラマ風な世界観を描いてカンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞を受賞した黒沢監督。“ホラー映画の達人”にはうってつけと言える原作を得て、本作では久々に王道への回帰を果たしている。西島秀俊、竹内結子、香川照之、東出昌大、川口春奈といった豪華キャストが公開前から話題になっていたが、当コラム的には「これぞサスペンス・スリラー!」と感じさせる羽深由理の音楽にも注目だ。
まずは作品について。登場人物や設定は骨子となる部分以外、原作から大きく変更されている。基本的には多くの人物が複雑に絡み合う原作の世界観を2時間サイズの映画に収まるよう整理することを目的とした改変だが、これによって香川照之の演じる“隣人”の薄気味悪さがさらに際立つと同時に、娯楽映画としてのエンタメ性がグッと底上げされている。
西島秀俊の演じる高倉は、ある事件をきっかけに刑事を退職。現在は犯罪心理学を教える大学教授になっているが、6年前の未解決事件の現場と自分たちの新居近辺の位置関係がまったく同じであることから、謎めいた隣人の西野が双方に関わっているのではないかと直感的に睨み、調査を始める。
妻の康子(竹内結子)、刑事時代の同僚の野上(東出昌大)、未解決事件唯一の生存者である早紀(川口春奈)、西野の“娘”である澪(藤野涼子)らが劇中で各々重要な役割を果たすが、中心に据えられているのは高倉と西野の心理的攻防だ。周囲の人間を巧妙に自分のフィールドに誘い込み、精神的に支配してしまう西野と、次第にそのペースに巻き込まれ、本来の冷静さを失っていく高倉。ともに黒沢映画としては4作目の出演となる香川照之と西島秀俊が、それぞれの持ち味を全開にした演技で役柄に当たっている。(後編「“薄気味悪さ”を植えつける音楽」へ続く…)
・【映画を聴く】後編/狂気全開! 香川照之の怪演を引き立てる羽深由理の音楽
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