国内メディアがタブー視、人の人生を金で解決しようとする不条理に抗う男が問いかけるものとは?
彼の存在は国内メディアではタブー、テレビに取材企画を上げてもOKが出ず
原発避難地域に住む男性を約10年に渡り追い続けたドキュメンタリー映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』。本作の公開に先駆けて中村真夕監督登壇のトークイベントが開催された。
・ニュースを超える戦場の真実…世界で起きている危機の圧倒的なリアル映し出す『戦場記者』予告編
原発事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町に、いまも人で暮らすナオトは、高度経済成長の裏側でカネに翻弄され続ける人生を送ってきた。原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理、命を簡単に“処分”しようとする理不尽に納得できず、残った動物たちを世話しはじめた。
世界を驚愕させた『ナオトひとりっきり』(15年)。カメラはその後もナオトを追い続けていた。コロナの蔓延、東京オリンピックを経て、まだ終わらない福島は忘れ去られてしまうのか?
・[動画]福島第一原発事故で無人となった町に動物たちと住み続けた男のリアルドキュメント映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』予告編
あれから8年。新たな命が生まれ消えていく中で、ナオトは変わらず動物たちに餌をやる日々を過ごしている。「将来の糧のため」ニワトリを飼い、蜜蜂を育て始めた。富岡は帰還できる町となったが、若い人たちは戻らない。コロナ禍で開催されたオリンピックでは「復興五輪」のPRとして、誰もいない福島の風景の中を聖火リレーが走り過ぎた。
原発問題に終わりはない。汚染水はあふれかえり、ダダ漏れのように海上放出される。全国で原発再稼働の動きは、粛々と進められる。そんな私たちの矛盾の渦中で忘れ去られる福島で、ナオトは今、動物たちとどんな思いで暮らしているのか。ナオトの生きかたを見つめながら、私たちの今を考える。
そんな本作の公開を記念して行われたプレミア上映会のトークイベントに、中村真夕監督が登壇した。
原発事故で無人地帯となった富岡町に残された動物たちの世話をしながらひとり暮らしていた松村直登さん。彼の取材を2013年夏から開始した中村監督は、「政府の避難要請を無視して、原発から至近距離の場所でひとり暮らすナオトさんの存在は国内メディアではタブー視され、テレビに取材企画を上げても上がOKを出さなかった。だから私は映画として彼を撮影することで世に出そうと思った」と制作の動機を明かした。
また、ここ数年の取材活動を通して、福島のことが忘れ去られていく現実、復興の難しさも実感した。「福島が忘れられてきている。電気代も高くなり、原発再稼働やむなしの雰囲気にもなっている。復興五輪と言いつつ、現実は住民が戻ってくる為の大きな産業もなく、若い人たちは街を離れ、別の街で仕事をしている。近隣に住んでいるのは、年金生活のお年寄りか、原発関連の仕事をしている人たち」と語った。
【推薦コメント】
この町、人、動物たち、ここにあった生き物たちの美しい営みは、置き去りにされてしまった、のではない。わたしたちが置き去りにしたのだ。どうすればいい。どんな答えも、完全な善でも悪でもない。だから考え続ける。
坂本美雨(ミュージシャン)
ナオトさんの言う「ムカつくだっぺ」「ふざけんなって言いたくなる」にすっかり同調しながら見た。でも、その視線を借りている自分は、もしかしたら、ナオトさんの視線に入っている側なのかもしれない。そして、この戸惑いや危うさを感じるのが、実に久しぶりであるという情けなさを噛み締めておきたい
武田砂鉄(ライター)
感動しました、巨大な事実を小さな事実を通して長年個人的に追うことで、現実にひそむ真実が見えてきます。人間も他の生き物と同じ限られたいのちを生きていることを感じさせるドキュメントです
谷川俊太郎(詩人)
福島原発事故で、本当に日本の半分が、あるいは全部が壊滅してもおかしくない寸前だった。そのような非常に厳しい環境の中で動物の世話しながら暮らすナオトさんの勇気に感服し、動物たちや自然をけがしてしまった人間の罪深さを改めて感じた。
菅直人(元・内閣総理大臣)
『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』は2月25より劇場公開。
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