“日本のマイケル・ムーア”のポテンシャルを後押し!異色ドキュメンタリー『センキョナンデス』は業界に一石を投じるか?

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プチ鹿島、ダースレイダー、大島新
左からプチ鹿島、ダースレイダー、大島新
プチ鹿島、ダースレイダー、大島新
大島新
センキョナンデス

【日本映画界の問題点を探る/「殺さぬように生かさぬように」のドキュメンタリー制作現場? 2】国内外から良質な作品が集まり、公開本数も増加傾向にあるため、年々ドキュメンタリー映画に対する注目度は高まっている。そんななか、ドキュメンタリー映画界に新たな風を吹かせるのではないかと期待されているのが、ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島。2人が初監督を務めた型破りなドキュメンタリー映画『劇場版 センキョナンデス』が2月18日に公開を迎えた。YouTube番組『ヒルカラナンデス』から派生して誕生した異色作で、プロデューサーとして名乗りを上げたのが、数々のドキュメンタリー作品を手掛けてきた大島新監督だ。

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ダースレイダーからの相談に「よくぞ私に声をかけてくれた」とニヤリ

「2022 年の参院選が終わった翌日に、ダースレイダーさんから『映像素材の件でご相談があります』とメッセージをもらったのがきっかけ。その時点で、『これはきっと映画の話だな。よくぞ私に声をかけてくれたな』と思いました。実際にいろいろと話を聞いていくなかで、友人としてお手伝いするレベルではなく、これはプロデューサーとしてしっかりと携わったほうがいいなと。そこから、私が所属する制作会社ネツゲンで編集や予算立てなどを担当することになりました」

センキョナンデス

『劇場版 センキョナンデス』は2月18日より全国順次公開
(C)「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

映画化をサポートすると決めた大島監督のなかには、2人に対する思いだけでなく、ドキュメンタリー業界の未来に対する期待もあったという。

「以前から、彼らが政治について面白おかしく語っている話を楽しませてもらっていましたが、根っこにある精神性もリスペクトしていました。『日本の政治や選挙について考えていこうよ』と毎週配信するのは、本当に大変なことですから。でも、遠くの人たちまでも巻き込むことができるのは、あの話芸があるからこそ。そこはプロとしてすごいところだなと感じています。実は、我々がいるドキュメンタリー業界はわりと閉じた世界というか、いい意味で真面目なので問題意識がある人だけが集まりがち。なかなか広げていくのが難しいので、拡散力のある彼らならドキュメンタリーの世界でも間口を広げてくれるではないかという気持ちも今回はありました。もっとドキュメンタリーの競技人口を増やしたいので、彼らと一緒に盛り上げていけたら嬉しいなと思っています」

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『ヒルカラナンデス』用に撮影した映像素材を基にした作品で、素材はふんだんにあった。そのためすべてを確認するだけでも1ヵ月近くの時間を要したというが、本人たちだけでなく、第三者の意見も取り込みながら作り上げていったと振り返る。

「まずは彼らが使いたい部分を書き出してもらって、それを中心に私たちが編集し、ジャッジしてもらうという流れにしました。ただ、私自身が彼らのことをわかりすぎているところがあったので、そうではない劇場や宣伝の方の意見も取り入れています。実際、彼らは自分たちのことを客観視できるタイプなので、『初見の人はそう感じるんですね、なるほど』とクールに受け止めていたのが印象的でした。どちらかというと、彼らのファンである私のほうが、関係者の意見に『わかってないな!』とムっとしてしまったくらいです(笑)」

大島新

『劇場版 センキョナンデス』を編集中の大島新

そういった作業のかいもあり、結果的には幅広い観客を取り込める作品として仕上がっている。ムビコレではダースレイダーとプチ鹿島の2人にも取材を行っているが、その際に彼らは自身のことを「映画界では素人」と話していた。しかし、プロである大島監督はそれゆえのポテンシャルを見逃さない。実際、2人のことを「日本のマイケル・ムーアになり得る」「異能のドキュメンタリスト」などと称している。

「私自身は取材者としてはわりと出たがりと言われているほうなのですが、それでも後ろ斜めくらいからちょっと映るくらいの程度。でも、彼らの場合は背中越しどころか思いっきり画面に出ていて、2人のしゃべりやリアクションも含めてドキュメンタリーになっています。取材のあとに感想を言い合うところや安倍晋三元首相の銃撃事件のあとに車のなかで黙り込んでしまう場面など、どれも普通のドキュメンタリーではできないこと。ただ、彼らのキャラクターがそうさせているし、それこそがほかの人には真似できない武器になっているんですよ。そういう部分も含めて面白いと感じたので、今回は“ドキュメンタリー界のお作法”は気にせずやってほしいと思いました。特に、YouTubeがベースになっている作品というのはなかなか珍しいので、そこも新しいですよね」

現状、ふたを開けてみなければどのくらい当たるかどうかは未知数だというか、自身のヒット作『なぜ君は総理大臣になれないのか』も公開するまでまったくわからなかったという。映画には博打的なところがあるとも話し、それだから映画作りはやめられないのかもしれないが、本作には従来のドキュメンタリーファンのみならず、新たな観客を取り込める可能性がある。今後のドキュメンタリー業界に一石を投じる作品となるのか、どのような反響と広がりを見せていくのか期待が高まるところだ。(text:志村昌美/photo:泉健也)【「殺さぬように生かさぬように」のドキュメンタリー制作現場? 3/世界的巨匠・大島渚も経済的な成功とはほど遠く…】に続く

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